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    魅上はデスノートが偽物だと気づいたようです。

     中編


-数時間後・レスター捜査室-(月)

月「初めまして……というのも変ですが、よろしくおねがいします、レスターさん」

レスター「……よろしく。……Lと呼べばいいのか月くんと呼べばいいか困るところだな……」

 やはりSPKはそれぞれ別の場所で捜査を行っていた……。そして僕の監視者はこのレスターというわけか。
見た目はそれなりだが……声が震えているな……。
 こいつは僕がキラだと確信していて、殺されるのを恐れているということか……。

レスター「ニア、Lが到着した」

ニア『ようこそ、L。通信で言うことではないかもしれませんが。こんな形になってしまい申し訳ありません』

月「いえ、私をキラだと疑うあなたからしたら当然の処置です」

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月「それではニア、まずは共に捜査するにあたり、互いに今まで得た情報を交換しませんか?」

ニア『はい、私もそのつもりでした。まずはお聞きしたい……L……あなたは、第2、のキラの検討は付いていますか?』

 わざと第2、というのを強調してきた……まぁ、だからどうといったことはない。

月「そうですね……これまでと違い、犯罪者以外を主に殺し……しかもそれに一貫性がない……。とてもじゃないが見当が付きません」

ニア『私も同意見です。……では、今回のキラの、始点はどこかお分かりですか?』

月「私の考えでは、20日ほど前の、□□大学や××会社の関係者が殺されたこと、です」

 ジェバンニの出身校や元の勤め先……三四が殺した奴らだ。

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ニア『では、これはご存知でしょうか?」

 ジェバンニのことだな……。

ニア『それらの場所は、共にジェバンニに関係があり、同じようにその2つの場所に関係していて殺されたのは、
    ジェバンニ以外に2人しかいません。そして、ジェバンニも死んだ……』

 ……三四……もう少し殺す相手を選べ……。だが、これは想定の範囲内。

月「つまり……ジェバンニを殺したのを隠すために、他の者も殺した……」

ニア『私はそう考えます。そしてそうなると、この魅上が拘束されたタイミングで殺したことになり……内部犯の可能性が出てきます』

 ……なるほど、自分でそれを言ってしまうことで、こちらからの追求を逃れたということか……。
内部犯だとすれば、可能性があるのはニアだけだ。

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月「となれば……第2のキラ……いや、少なくともジェバンニを殺したのは、私や日本捜査部の者、
   そしてSPK関係者になりますね」

 日本捜査部の者はもういない……ニアもそれは分かっているだろうが、これは建前として必要だ。

ニア『はい。そうなります』

レスター「勿論、それはあくまで可能性だ」

 レスター……そんなことを言ってどうする……。
 もう誰もが分かっているはずだ、間違いなく関係者の中に、ジェバンニ殺し……第2のキラがいることを。

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ニア『ところでL、1人あなたに紹介しなければならない人物がいます』

月「紹介……? それはもしかして、SPKのメンバーはあなたがた3人だけではなかった、ということですか?」

ニア『……そうです、申し訳ありません。少し前まで私しか知らなかった、もう1人がいたんです』

月「……まぁいいでしょう……それで、その人物というのは?」

M『はい、Mと申します』

 また通信……M……。

月「M……Lです。よろしくおねがいします」

M『こちらこそおねがいします』

ニア『ではL……また後ほど連絡をします』

 ひとまず状況は整った。
 まずは、懸命に捜査する振りをして、僕が少なくとも、第2のキラ本人、
またはそれと関係しているなどと思わせないようにしなくてはならない。
 当面はニア達も大きな動きは見せないだろう。ならば僕に出来ることは……レスターに対することだ。

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月「レスターさん」

レスター「……な、なんだ……? L……」

月「ははっ、そんな緊張しないでくださいよ」

リューク「何その明るいキャラ」

 黙ってろリューク! レスターにお前の声が聞こえなくとも僕には聞こえるんだ、気が散る!

月「レスターさんはMって人のこと、どれくらいご存知なんですか?」

 ここは下手に回りくどい言い方をするのはよくない……ストレートだ。

レスター「Mは……さっきニアも言っていたが、つい先日まで私達は知らなかった存在……。
      私が知っているのは、Mは、私達を尾行していた、ということくらい……」

 どうやら嘘を付いている様子はない……いや、僕を恐れているから付けないんだろう……好都合だ。

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月「それはあなた達がニアに、キラではないと疑われていたということですか?」

 これはまずないだろう……しかし、これを聞いたことで、”もしかしたらそうなのかもしれない”という疑念が生まれることもある……。
いずれニアをキラに仕立て上げるのだから、伏線は張っておかねば……。

レスター「いや……ノートで操られて不振な動きがないか監視されていたようだ……」

 まぁ、そうだろうな。
 ニアも、そのくらいのことは僕なら想像が付くと考えた上でMを紹介し、レスター達に尾行のことを話したのだろう。
しかし、この様子なら案外簡単にSPKの者を信用させることができるかもしれないな……。

 やはり、初代Lもそうであったように、本人以外は皆ぬるい……。……退屈させてくれるなよ、ニア……。

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-20日後・レスター捜査室-(月)

月「ニア、何か掴んだとは本当ですか!?」

ニア『掴んだかどうかは分かりませんが……少し第2のキラの法則性が見えてきました』

 ……それは当然だニア、僕が三四にそう指示していたのだから。そしてこうすることで、内部犯ではなく、
全く別の人間が第2のキラ、という可能性を含ませることになる……。勿論それが有効なのはニア以外に対してだが……
今の段階ではニアは関係ない。

レスター「こちらも頑張らねばならないな、月くん」

月「そうですね、レスターさん」

 気づけばレスターは僕を名前で呼ぶようになった……これは僕を信用してきた証拠だ……。
今まで僕が、全く別の人間が第2のキラ、ということを一番吹き込んできた人物……それによって僕を疑えなくなってきたのだろう。

 何より、常に自分の目の前に僕がいるのに、犯罪者裁き、第2のキラの殺しは起こっているのだ。
頭で僕がキラだと思い込ませようにも、感情的な面ではそれが出来なくなっているはずだ。僕がそうなるように行動していたんだ、当然だ。

 勿論、この部屋には盗聴器などがしかけられ、ニアは常に僕とレスターの会話を聞いているだろうが……
盗聴器はただ聞くための道具にすぎない。そして、一緒に捜査すると言った以上、通信という公な場所で僕を疑うような言動はしない。

 ニア……やはりお前はLに到底及ばない存在だ……。

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-10日後-

prrrrrrrr

レスター「メールのようだな。すまないがまた見させてもらうぞ」

月「はい、どうぞ」

レスター「差出人”鷹野三四”……内容は、”久しぶりに会いたい”……か……。彼女か、月くん?」

月「まぁ、そんなところです。……こっちに来てから一度も連絡を取ってなかったですからね……」

レスター「そうか……」

月「本当は会ってやりたいのですが……ニアが許してくれるとは思えません……」

レスター「……私からもかけあって見る、当然監視することになるだろうが……彼女と会うことに変わりはない」

月「ありがとうございます、レスターさん!」

リューク「ククク……計画どおりって分けか」

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-30分後-

ニア『ではL、さきほど言ったように監視者を付けさせてもらいます。また、盗聴器などは付けません。
    カメラなどでずっと見ているのは不可能ですので、筆談されたら意味がありません。
    あなたは過去にやっていたようですし……』

月「過去のことは関係ありません。それより彼女に会うことを承諾していただきありがとうございます」

ニア『いえ。……ではこれで』

 さて、これからどうするか……三四がリドナーの居場所を見つけているのが一番良いが……。
だが実際、これまでの捜査の中で、リドナーが外に出る必要があったことは一度もない。
これでは見つけることは難しいだろう。

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 ……何にしても、これから僕が動き、ニアの名前を知ったときに、一番注意すること。
それは、僕がニアの名前を知った、ということを三四に知られないことだ。

 もし三四がそれを知れば、当然ニアをすぐに殺せと言い出すだろう。そしてニアが死ねば、僕は三四に殺される。
僕の考えでは、三四は僕の本名を知っているはずだ。
 つまり、僕はニアの名前を知ることと、三四の名前を知ることを両立しないといけないということだ。

 ……だが、しばらくはニアの方に集中すべきだ。三四はニアと違って隠れていない。その気になれば、どうとでもなる。
 ならば今やるべきこと……それは、いずれ殺すことになる監視者が誰か知ることだ。僕の予想ではレスターだろう。
彼は僕とずっといるわけだし、逆に僕がいなくなればいくらでも動ける。かまをかけてみるか……。

月「監視者……やっぱりレスターさんがやるんですか?」

レスター「まさか。私はここにいて捜査をしなければならない。月くんは私と共に、前にも外に出たことがあるだろう? 
      そういうとき、私すらも監視する者がいなくてはならない」

 ……! レスターに言われて気づくのも気に障るが……僕の監視者はMという奴だ……それはレスターをも監視する、ということばから明かだ。
 これならば……策を変更して、早めることができる!

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-1時間後・○×レストラン-(月)

鷹野「久しぶりぃ……会いたかったわぁ……くすくす」

月「僕はそうは思わないが……。で? リドナーの居場所は?」

鷹野「久しぶりに会った恋人同士っていう設定なのに連れないわねぇ……。
    ……結論から言えば、皆目見当が付かないわ」

月「だろうな……そう思って、計画を変更した」

鷹野「へぇ……どんなのかしら?」

月「リドナーを操る」

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鷹野「SPKのメンバーは取っておきたいんじゃなかったのぉ?」

 それは監視者が判明した時点で解決した。

月「そうだが……もうすでに書いた」

”Halle Bullook
 今から23日間のどこかで可能な限り早く、□□□に自分の居場所を記した手紙を送る。
 そして23日後○時△分、錯乱して自分を撃つ。”

鷹野「あら……まぁいいわ、計画が早くなったってことね? ……でも、あなたに従うような下りをいれなくてよかったの?」

月「いや、問題ない」

鷹野「大した自信ね……」

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鷹野「そこまで自信満々な陽くんの、完璧な作戦をそろそろ聞きましょうか」

月「簡単だ。ニアの所へ、キラとしての僕に忠誠を誓う者達を突入させ、殺す」

鷹野「……? じゃあリドナーは意味がないんじゃないのかしらぁ?」

月「リドナーは、ニアの居場所を聞きだすために必要だ」

鷹野「ならそれをデスノートに書けば……」

月「”ニアの居場所を書き……”というのはできない。ニアは通称だし、そもそもデスノートは名前が出たら心臓麻痺になるだけだ」

鷹野「……それがあなたの作戦ね。……分かったわ、私は高みの見物とさせてもらうわねぇ」

月「ああ、それでいい」

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 三四……お前には考えられるだろうか……。この策の果てには、お前の死も含まれていることも……。

鷹野「で、作戦実行はいつ?」

月「そうだな……三四に会ってすぐじゃあ、あまりに早すぎる。となれば……半月後……よりSPKの奴らを信用させてからだ」

鷹野「ふふ、楽しみね……じゃあそのときは通信をオンにして、ニアの断末魔を聞かなきゃね……」

月「趣味が悪いな、三四」

鷹野「いいじゃない……」

 断末魔……それはお前もあげることになるんだ!

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-23日後・レスター捜査室-(月)

レスター「捜査はどうだ? 月くん」

月「なんともいえないところです……」

 レスター……最初の1週間こそ僕を疑いの目で見続けていたが……最近は信用とはいかないまでも、
疑念は大分薄れているようだ……。これならば、僕の策は実行可能になる!

レスター「ニアにもどんな具合か聞いてみるか?」

月「そうしましょうか」

 ……今だ……!

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レスター「ニア、捜s……」

キラ信者A『出てこいー!』
キラ信者B『ドアをぶち壊せー!』

レスター「!? な、何事だ!? どうしたニア!!」

キラ信者リーダー『キラを支援する同士諸君! じわじわと彼らを確実に追い詰め、
          カメラの前へさらけ出し、キラ様へ捧げるのです!』

月「これは……まずいですよレスターさん!」

レスター「ああ……くそ……どうしたら……!」

月「レスターさん! ニアがどこにいるか知らないんですか!? このままではニアが……!」

レスター「……」

月「レスターさん!!」

キラ信者リーダー『第1陣はドアを破って中へ!!』

レスター「く……分かった! 付いて来い!!」

月「はい!」

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-数分後・ニア捜査室付近-(月)

レスター「リドナー!」

リドナー「……」

月「早く行かないとニアが……!」

レスター「……月くん……いや、L、今から私達は突入するが、君はここで待機だ。
      ニアが無事だったとしたら、君に顔を再び見られることになる。
      ニアはそれだけは避けたいと言っていた……」

月「そんな……!」

リドナー「……この通信機を渡します……これで音声だけですが中の様子が分かるでしょう……」

月「く……! 皆さん、おねがいします!」

レスター「行ってくる……!」

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 リドナーに渡された通信器から、彼らの声が聞き取れる。

レスター『どういうことだ……ドアが破られた様子はおろか、人が出入りした気配すらない……』

リドナー『とにかく一度、中に入ってみましょう』

 ……。

レスター『ニア!』

リドナー『ニア! 大丈夫でしたか!?』

ニア『大丈夫……おかしなことを聞きますね、リドナー』

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リドナー『……』

レスター『ここはキラ信者によって襲撃を受けたのでは……?』

ニア『……何のことですか? ここには、あなた達以外入ったことはありませんが……』

レスター『な……に……?』

ニア『皆さん……誰かにイタズラでもされたのでは……?』

月「くくく……ふふ……あーっはっは! そうだ、それは僕がやったことだ! 
   そしてお前は、今度はイタズラなどではない真の兵によって、
   僕に殺されことになるんだ!」

 こんなことろで言っても、奴には聞こえないだろうがな……!

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-5日前・○×レストラン-(月)

月「お待ちしてました、リドナーさん」

リドナー「……夜神月……L……」

月「今は月と呼んでください」

 デスノートで操られた人間が、その行動に対しどう思うのか……などは分からないが、
少なくとも、僕が、”お会いしたい”という手紙を出したことについて、驚いているようだ。

 僕は、数日前にリドナーから自分の居場所についての手紙を得て、そこに会いたいという旨と、
時間、場所などを書いて送った。それは無論、三四も言ったようにリドナーを取り込むためだ。

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リドナー「それで、私に会いたいとは……なぜ……」

月「リドナーさん、なぜあなたはニアに従うのですか?」

 ここはまず間髪を入れずに、相手に悩ませることが重要だ。
そうすれば考えがまとまらなくなり、結局自分でもよく分からない結論にたどりつく。それでいい。

リドナー「私は……キラを捕まえたい一身で……」

月「そうですよね。……ならば、ニアがキラだと思っている僕を、今ここで捕まえますか?」

リドナー「それは……。確かにニアはあなたをキラだと言っていますが……結局完全な証拠は今まで一度も……」

 やはりな……。こいつは僕をキラだとは思っていない。疑っているレベル……いや、もしかしたら……。

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月「そうですか……それならばよかった。実は、今から僕の考えをあなたに聞いて欲しかったんです。
   でも、仮にそれで納得して、僕の考えるキラを捕まえようなどという暴挙に出られては困る。
   これはあくまで僕の推測……ニアが僕をキラと考えているのと、何も変わらないものなのですから」

リドナー「あなたは第2のキラの正体が分かった……と……?」

月「推測です」

 ここは下手に推すべきではない……すでにリドナーは混乱している……。
口車に乗せるのは簡単だ。リドナーも結局、女だしな……。

リドナー「分かりました……聞かせてください……。勿論それで、そのあなたの言うキラを捕まえようなどとは考えません……」

月「ありがとうございます。……結論から言うと、僕の考える第2のキラは……ニアです」

リドナー「!」

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 ……その反応……驚きも感じるが……。

リドナー「な……なぜニアだと?」

月「まず、僕がニアを疑うきっかけになったのは、他でもないYB倉庫の一件です。
   あれがなかったら、僕はニアを疑うことすらなかったでしょう。
   だがあれだけでは、ニアをはめるために、魅上や、他の者が仕組んだとも考えられる。
   実際、誰も死なず、ノートは偽者だったのだから」

リドナー「はい……私も同じことを考えました……」

 それを言うということは……そのあとリドナーは、ニアを疑っていた可能性がある……! 
やはりリドナーを選んだのは正しかった!

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月「本当ですか? ならば、僕の推理を話した後、リドナーさんの話も聞きたいです」

 まぁ、その必要はないがな……。

月「だが、僕がニアを疑う決定的な事態……それがジェバンニの死だ。ニア自身も言っていましたが、
   ジェバンニが死ぬことで考えられるのは内部犯ということになる……。僕は第2のキラの動向から、
   外部犯だということを推してきましたが……それは僕がニアを怪しんでいると分からせないためだ」

リドナー「なるほど……」

月「そして僕の言っているキラとは……第2のキラ、だけではありません」

リドナー「どういうことですか!?」

月「僕の中では、第2のキラ……そして犯罪者を裁くキラ……どちらもニアです」

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リドナー「そんな……まさか……」

月「ですが、そう考えると、全ての辻褄があってしまうんです! 
   例えば……今回、ニアは別々の場所で捜査することにした……どうしてだと思いますか?」

リドナー「それは……あなたが死神の目を持った場合を考慮して……」

月「違います。騙されています。ニアは1人になることで……キラとしての行動を起こしやすくしたんです! 
   今までは犯罪者を裁くだけでよかった……しかし、今回は第2のキラとしての動きも必要だった。
   そこで1人になり、それを可能にした」

 推測とは言ったが……こうして言い聞かせるようにすることで、リドナーは必ず、よりニアに疑念を抱き……
そしてリドナーの中で、ニアはキラとなる!

月「考えてみてください……あなたがSPKとして動く中で、ニアがキラだった……そう仮定した場合を……」

リドナー「確かに……そうなればニアはSPKの動きを全て知っていたことになるのですし……自分の推理も当然当たる……」

月「そうです。ニアは推理していたように見せかけ、ただ自分のこれからの行動を言っていただけなんです」

 よし……もう少しだ……。

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リドナー「ですが……それではおかしな点が……。ニアはYB倉庫であなたに会うまで、
      あなたの顔を知らなかった……だから邪魔となるあなたを殺せなかった……
      それはいいとします。でもその後……なぜあなたを殺さないのでしょうか?」

月「それは恐らく……僕が眼中にないのか……よほど自信があるのか……。
   ……ですが、僕の考えでは、ニアは一度、僕を殺そうと僕の名前をデスノートに書いたはずです」

 いくらリドナーといえど、その点には気づいたか……。だが、それもすでに1つのパターンとして考えてある……。

リドナー「……ではなぜ……あなたは……」

月「……ハル・リドナー、いい名前だ。夜神月……これはどうです? 変わった名前だと思いませんか?」

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リドナー「それは……確かに……ムーンと書いてライト……変わっていますが……」

月「それもありますが……僕は、ただでさえ名字が闇を彷彿させる。それにこの名前では、まるで死神のようだ」

リューク「ククク」

月「実はこれ……後で改名された名前なんです」

 こんな滅茶苦茶な話……いくらこいつといえど、今までなら絶対に信じなかっただろう。
だが、僕がこの話をするということは、リドナーが、ニアがなぜ僕を殺さないのか、という質問をした場合のみだった。
そして実際にその質問が来た……その質問をするには、ニアをキラだと疑い始めないとできない。

 つまりこの段階で、リドナーはニアよりも僕を信用したことになる!

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月「僕の本当の名前は……夜神光……読み方は同じです。
   ですが、日本には画数で人の人生を占うという妙な風習がありまして……それにひっかかったようです。
   しかもそれは、僕の戸籍を提出した後だった。何を考えているんでしょうね、僕の親は」

リドナー「……」

月「占って初めて、よくないことに気づいた。
   そこで親は改名……ライト、という響きは捨てたくなかったようで、結局今の名前に……。
   ですが、僕の戸籍では、夜神光となっているんです」

リドナー「名前が違ったから、殺されなかった……」

月「はい。だいたい、おかしいと思いませんでしたか? 
   僕の名前は、学校などに少なからず残っている……それなのにキラ捜査……それは、これがあったからです」

リドナー「それは理解できます……」

 もういいだろう……。

月「リドナーさん……僕があなたを呼んだ本当の訳……それは、あなたに頼みたいことがあったんです」

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リドナー「頼み……ですか?」

月「はい……。……僕の名前は改名されたものとはいえ、ニアはほぼ僕の本名を知っているといえる。
   つまり、僕はニアに殺される直前……そしてそれは、リドナーさん達も同じです……」

リドナー「……」

月「ならば少なくとも、ニアの名前だけは知っておきたい……そうすれば僕とニアは対等になるのだから……」

リドナー「ニアの名前を……? まさか……死神の目……?」

月「はい、それをあなたに持っていただきたい」

リドナー「!? 私……が……?」

月「はい……まずは、この紙に触れてください」

リドナー「……? ……! な……あ……死神……!!」

リューク「ククク、リュークだ」

月「彼と取引することで、死神の目を得ることができます。
   ただその対価として……自分の残りの寿命、その半分が必要になります……」

リドナー「寿命の半分……!?」

月「あなたしかいないんです……!」

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リドナー「……月さん……あなた自身が、その取引というのを行えば良いのでは?」

月「はい、僕も本当はそうしたい……だが……できないんです。ノートには、所有権というものがあります。
   所有権というのは、そのノートの持ち主を指します。
   そしてその取引は、初めてノートの所有権を持ったときにしかできないんです」

 無論、そんなものは嘘だが……。

月「そして出来たとしても、ニアは僕の前よりも、あなたの前ならば姿を現す可能性が高い。
   いや、僕の前に来ることはないでしょう」

リドナー「……」

月「おねがいします。これは当然、ニアを殺すためのものではありません。
   勿論、最終手段としては考えられますが……
   あくまでニアをキラとして追い詰めるのに必要な武器なんです!」

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リドナー「……」

月「すぐに答えは出ないでしょうね……。……このカバンの中にノートが入っています。デスノートです。
   もしあなたに覚悟があるのならば……その所有権を得て、取引をしてください。
   そして取引をするしないに関わらず……そのノートはこの紙に記された場所に戻しておいてください。
   またこの紙に、あなたが取引をしたのか、しなかったのかを書いておいてください……。
   なお、同様の紙に、今後の指示も書いてあります」

リドナー「……はい」

 ……。

月「あなたの考え、今の会話の中でいろいろと分かりました……それは僕に考えに近いものだった。
   そんな僕とリドナーさんがこうして会えたのは何かの運命だ!
   僕とあなたで、キラを捕まえましょう!」

リューク「ククク……運命……」

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 ……。

 あそこまで追い詰めれば、必ずリドナーは取引する……。そうでなければノートを置いてくるなんて危険な真似、
できるはずがない。
 リドナーは、なぜニアに預けたはずのノートがここにあるのか、ということを追求できないほどだったしな……。
 そして僕がノートを置いてきたのは、取引をした場合、僕の名前が見え、さっき言った改名の話が嘘だとバレる……それはまずい。
こういう口車に乗せるときは、1つでも嘘だと気づかれてはいけないんだ。

月「リューク」

リューク「所有権だな」

 とりあえず僕は、ひとまず所有権を放棄しなければならない。
だが、僕の手の平に、リドナーにノートを戻すように指示した場所を書き、”必ず行け”をも書いておいた。
 記憶がなくなった僕は何のことか分からないだろうが……絶対に行く。そしてノートに触れ、記憶を戻す。
後は以前のようにノートをコルセットで身につければいい……。

月「5日後が楽しみだよ……ニア……」

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-時系列戻る・ニア捜査室付近-(月)

 全ては僕の策……リドナーにニアの顔を見せるための! 
 リドナーに、通信器を渡せと言ったのも僕、しぶるようなら、皆をうながせと言ったのも僕だ!
そしてリドナーは今日死ぬ……それを行ったのも僕……。
 通信器ならば、たとえ三四がどこかで今の事態を聞いていようとも、
リドナーが通信器に言ったことまでは聞き取れないだろう。
 
 あの襲撃されたかのような音声……あれはいつか出目側指揮の下、SPKを襲撃したときの音声を録音したものだ。
あのときカメラが回っていた、それを作ることなど造作もない。

 僕は、2ヶ月の間に、SPKのシステムに介入できるほどになっていた。そしてあの録音した音声を流し、ニアの下へ終結させた。
僕の読みどおり、レスターはニアの場所を知っていた。リドナーに対しては、あれが作戦開始の合図だと、あらかじめ知らせておいた。

 そもそも、僕や三四でさえたどり着けなかったニアの居場所だ、ただの信者ごときに見つかるはずがない。
僕が誰とも通信していないこの状況ではな!

 ニア……お前の最大のミスは、三四と僕の繋がりに気づけなかったことだ。
 尾行者はM……それが分かった時点で僕の計画は早まった……三四がM……そんなこと、すぐに気づけたからな!

月「さぁリドナー! 早くニアの顔を見るんだ! そしてその名前を通信器に向かって叫べ!!」

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リドナー『ニア、なぜさきほどから私達に背を向けているのです……?』

 背を……? 何か見ているのか……?

レスター『何にしても、ニアが無事でよかった』

リドナー『それはそうですが……気になります』

ニア『私も気になります……あなたはなぜ私が背を向けているのを気にするのか。そんなに顔が見たいんですか?』

レスター『ニア……リドナー……?』

リドナー『か……顔を見ればその人が無事かどうかすぐに分かるということです……』

ニア『なるほど、一理ありますね……では……』

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 リドナー! 早くニアの名前を言うんだ!! すでにお前はニアに不審がられている……!

レスター『ニア……!』

リドナー『え……Lの、仮面……?』

月「仮面!?」

 な、仮面……? 顔を隠して……!? いったいどういうことだ!?

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ニア『夜神月……L……あなたは今、これを聞いていますね? ……リドナーの口から、私の本名を聞き出すために……』

月「な……なぜそれを……!」

 ぐ……向こうからの声は聞こえても、こちらからの音声は送れないようにしてある……。

ニア『リドナー……あなたは、少しは私を疑っていても、最後は私を信じてくれると思っていました。
    ですがこれでは……』

 ま、まだだ……リドナーは銃を持っている、それで殺せば……!

リドナー『あ……ぅ……す……すいません……にあぁ……。あ、ああああああ!!』

 直後、リドナーの叫び、叫び。同時に鳴った銃声と思われるものをかき消すほどの。

 自殺……デスノートの効果……! リドナーにニアの名前を言わせてからの予定が……!!

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レスター「動くな!」

 !!

月「な……!」

 気づけば、レスターが銃をこちらに向け、立っていた。いつの間に……!

ニア『キラ、逃がしません』

 くそ……くそ……!!

レスター「こっちへ来い!」

月「……」

 なんてことだ……僕の策が失敗……そしてこのザマ……だが、なぜ気づかれた!?

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-ニア捜査室内-(月)

ニア「夜神月……キラ……これが決定的な証拠とは言いがたいですが、
    こんなことをするのはキラ以外にいない……お前がキラで決まりです」

月「……」

 決定的な証拠ではなくても、ニアがここで僕にするのは少なくとも監禁……どうしようもないのか!?

月「ま、待ってくれ! 僕は脅されていたんだ……。
   それよりも、なんでリドナーが死神の目を持っていると分かったんだ?」

 なんて言い訳だ……だが、少しでもニアと話し、逃げる糸口を掴まなくては……。
こんなことなら、未だ銃を向けているレスターも、リドナーと同じように、
あらかじめノートに書いておくべきだった……。

ニア「盗聴器、ですよ」

月「盗聴器……!?」

 盗聴器だと……? ニアは確か、僕には盗聴器などつけず、監視者をつけるだけだと言っていた。
そして勿論、僕自身も調べてみたが、やはりそんなものはなかった。
 だが……現にこうして、ニアは僕の策に気づき、対策をしている……。

 どこにそんなものが……。

-----

ニア「はい。リドナーは……以前から私を、キラだと疑っていました。勿論、それは疑念程度でしょうが、
    私は危惧した……リドナーの裏切りを。ゆえに私は、今までのように一緒に捜査するのは止め、
    別々の場所で捜査する、そう決めたときから、リドナーに盗聴器を仕込みました。
    リドナーの捜査室は勿論、服や持ち物など、様々なものにです。
    もしかしたら彼女は気づいていたかもしれませんが……結果それが、お前を捕まえるきっかけになった」

 リドナーに盗聴器……!

 なぜ僕はそれに気づかなかった……? こんな単純なトリックに!
三四とニア……その二人に気をつけ、気を張りすぎた結果がこれか……。

ニア「お前はバカだ。確かに頭は回るが……少し考えれば分かるような簡単なことに気づけない」

 なんだと……!

レスター「ニア!」

ニア「……どうしましたレスター?」

 突如レスターが叫ぶと、二人は監視カメラの画面を見ていた。

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レスター「魅上がいない!!」

ニア「……」

 魅上がいない……?
 画面には、ベッドと簡易トイレが起かれただけの部屋が移り、そこには誰もいない。
そこに魅上がいたということなのだろうか。

 まさかこれは……!

ニア「テープを巻き戻してください」

レスター「分かった! ……こいつは!?」

 画面に映るは、鍵と思われるものをいくつもぶらさげた女……三四が、魅上を逃がす所。

レスター「何者だこいつは!!」

ニア「……」

 これだ、これを利用するんだ!

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月「こ、こいつだ!! ニア、さっきも言ったが僕は脅されてリドナーさんにあんなことをした!
   そしてその張本人は、このカメラに写ってる女……鷹野三四だ!!」

 さっき口から出たでまかせだが……これを使うしかない!

ニア「……脅された、ですか」

レスター「今はそんな話をしている場合じゃないだろう! ……!
      そうだ、確か魅上は、Mが管理していたはず、Mは無事なのか!?」

 Mが管理……だと……!? じゃあ三四は最初から……!

ニア「……無事でしょうね。今カメラに写っていましたから」

レスター「……!?」

ニア「Mがいた場所には、万が一のために武器もありますし、こちらに異常事態が伝わるように、非常ブザーもあります。
    それが作用しなかった……そしてさきほどカメラに映った女は、魅上がいた部屋の鍵全てを持っていました。
    レスターも知っているでしょう、あの部屋は7個の鍵がかけられ、それらは全て別の場所で保管されていました」

レスター「それを持っているということは、あの女がM……」

ニア「そういうことでしょうね」

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ニア「彼女を信じきっていた私のミスです。
    ……今思えば、鍵は皆で分担して持とうと言ったのを彼女が拒んだのは、おかしなことでしたね。
    それは、いつか魅上を逃がす、その証明です。
    Mとはあなたより前からの知り合い……前にも言いましたが、ワイミーズハウスの出身者でしたので……
    本当に面目ないです」

月「じゃあそいつがキラで決まりじゃないか!
   SPKの情報を知りえる立場にあり、そして魅上を逃がした……。
   さらに、僕をデスノートで脅してきた……間違いない!!」

ニア「デスノートで……ですか。その脅しというのは、どういうものだったんですか?」

 乗ってきた……いや、聞かずにはいれなかったはず。

月「僕を突然呼びつけた彼女が、お前の顔と名前を知っているから言うとおりにしろ、と、
   ノートをチラつかせながら言ったんだ。そしてリドナーさんのことも……。
   本当はすぐにでもニアに伝えたかったが、鷹野の話を聞くと、どう考えてもSPK関係者だった。
   そんな状態でそのことを伝えるなんて、自殺行為だったんだ……」

ニア「……」

 今はどうせ信じていないだろう……だが、これで僕を監禁するのは難しくなったはず。
自分で”決定的な証拠ではない”と言ったんだ、それをさらに切り崩されるかたちとなっては、
できるはずがない、してはいけないんだ!

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-ニア捜査室-(ニア)

 まさかミヨが裏切るとは……だがこのタイミング……そして脅し……夜神月とミヨは繋がっていたということ……。
……リドナーと夜神月が会っていたということを、盗聴器があるとはいえミヨは私に伝えなかった……
その時点で気づくべきだったか……。

 ただ、脅し……それは本当なのだろうか。仮にそうだとすれば、夜神月は被害者でしかないが……そんなはずはない。
夜神月は黒、それは間違いない。そうなると、二人は組んで私の名前を知ろうと……?

 名前……? 魅上……。

ニア「魅上は私の名前を知っているはず……なぜ私は死んでいないのでしょうか」

 そのためにミヨは魅上を解放したはず。

月「分からない……。魅上が忘れている……?」

 忘れる? バカな。殺したいと願った私の名前、忘れるなど絶対にありえない。
だが、私は死んでいない……夜神月はミヨがノートを持っていると言ったが、嘘か?

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 ……考えてみれば、このタイミングでのミヨの動き……これは夜神月の策ではないな……。
リドナーという、こちらの仲間を使うかなり危険な策……この後に魅上、ありえない。
混乱を作るためだとしても、他にも方法はある……リドナーを使うくらいならば、さっさと魅上を解放するだろう。

 となると……今回はミヨの独断……そして脅し……広い意味で考えればこれも嘘ではないのかもしれない。
一応協力関係にありつつも、ミヨは一方的に夜神月の顔と名前を知っていた……鷹野三四というのはどうせ偽名だ。

 ここからは、ミヨも探っていくことになるが……どうしたものか。
単純にレスターを接触させても、まず証拠などでないだろう。

 そして夜神月……ここまで証拠らしいものが現れても、どれも核心を突くことができない……。
今回の件、普通ならば夜神月を監禁したいところだが……ミヨ、この存在がある限り、意味がないことに……。
 ならばいっそ、夜神月を利用して、ミヨも捕まえるしかない……!

 危険だ……それもことごとく私の読みを超える動きをしてくる……。
 しかし……もはやそんなことを言っていられるレベルではない。今まで私は、いくつも危険な賭けに出た。
ここに来て、それを尻込みする必要などない。

 私が未だ死んでいないのはやはり気になるが、今はミヨを捕まえるしかない。


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