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前編 中編 後編



    魅上はデスノートが偽物だと気づいたようです。

     後編


-30分前・M捜査室-(鷹野)

魅上「……誰だ、お前は……」

鷹野「誰とはご挨拶ねぇ……私はいつもあなたを見ていたのに」

魅上「……M……というやつか」

鷹野「ふふ……」

魅上「なぜ私を解放した? お前は敵のはず」

鷹野「もともと私はニアの仲間じゃないわぁ。あなたの力が必要なの……」

 夜神月……いえ、ゴミが失策した今、最後の策……魅上を使うしかない。
 今までは、この策をとると私がニアに疑われる……いえ、キラに加担したと断定される……。
それだけは避けたかった。魅上がすぐにニアの名前を教えてくれるという保障があればよかったけど……その可能性は……。

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魅上「……」

鷹野「……」

魅上「……私は長きに渡り監禁されていた。少し頭が混乱しているようだ……」

 さっきの私のことばで、私が魅上に欲するは死神の目、それくらいは察したはず。
そこでこの言動……やはり私に教えることはできないということ……。
 これだからこの策は取りたくなかったのだけど……仕方ない。
 月がデスノートを持っている時にやったとしたら、私の本名とニアの本名を、月に知られるだけだし……。

鷹野「分かったわ、私の所にいらっしゃい」

 魅上ならすでに、私がノートに関係していることは読めたでしょう。
そしてニアを殺そうとしていることも……。

 もしニアの名前を伝えれば自分は用済みになるかもしれない。
自分はノートを持っていないのだから、いくら私の名前が見えていても殺せない……。
その可能性に気づく……逆に魅上を調べていた私にすれば、これくらいの想像はできる。

 でも必ず、私を信用させてみせる……夜神月……まだあなたにも利用価値はあるということね。

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-1時間後・元日本捜査部-(魅上)

魅上「神の救出……」

鷹野「そうよ。私と月は協力関係にあった。でも月は捕まってしまった……」

魅上「……協力する」

 この鷹野……いや、田無という女……本当に神と繋がっているのか?
 神はそんなこと一言も……いや、私が捕まった後にということも考えられるが、
こいつは死神の目を持っていない……所有権が私にあるからそのノートではできないとも思えるが、
神のノートを使えばできたはず……。

 神は私に死神の目を持たせた……つまり、神の協力者は死神の目を持ってこそ……。
そうなっていないということは……信用するべきではない。

 神の救出の手助けはするが、今はNateRiverのことは言わないほうがいい……。
言ってしまえば、もし神とこの女が協力関係になく、一方的に神が脅しなどをかけられている場合、
確実に神と私は殺される……。
 こいつが今ここで鷹野という偽名を名乗った以上、神にもそう名乗っているはず……そして鷹野は鷹野で、
神の本名を知っている……。これが脅しの可能性を促進させている……。

 今はまだ、機を待つしかないな。

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-同じ頃・SPK本部-(月)

ニア「……では、鷹野三四を探る方向で」

 ……魅上が解放……それも三四によるもの……。三四は自分が魅上を管理しているなど、一言も言わなかった……。
最初からその手を使えば僕はこんなことにならなかったはずだが……。

 僕は、ニアに監禁、拘束などはされないものの、持ち物は全て没収され、
衣服ですらもレスターが用意したものを着用させられることになった。
 当然デスノートも奪われたが、所有権があったリドナーは死んだ……身に付けていなくても、
記憶が失われることはない。ニアにもリュークが見えることになるが、それはもはや問題ではない。

 僕やニアが死んでいないのは、恐らく魅上の機転で、ニアの本名を三四に伝えなかったからだろう。
魅上なら、それをすると僕や自分が死ぬことくらい分かるはずだ。

月「それは僕も捜査していいということか?」

ニア「そうなりますね」

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 なるほど……ニアはもはや、僕を利用することを考えているということか……。
そしてその過程で、僕がキラとしての、絶対的な証拠が見つかるかもしれない……そう考えているのだろう。
デスノートを身に着けていることなど、今更なんの意味もない。
 いや、三四を捕まえることで、三四から僕のキラだという証拠を聞き出そうとしているのかもしれない。

 僕は三四に脅されていると言った……事実少なからず僕はそう感じているんだ、間違いではない。
そうなると、もし三四が捕まれば、三四が僕を道連れにする……その可能性は高い。

 さらにいえばニアは、覚悟を決めたともいえる……死の覚悟……。
そうでなければ僕を使おうなどと思えない。少なくとも軟禁程度はするだろう。

 だがそのおかげで、僕にはまだチャンスが残されているといえる。

月「ニア、僕から提案がある」

ニア「……何でしょう?」

 僕からの提案……少し前までのニアなら絶対に乗らないものだっただろう。
しかし、今ならば……。

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月「僕は鷹野に脅されていた……そうなると、僕が鷹野と会うのは何の問題もないことだ。
    だから、僕が直接鷹野を探る。
    脅されたときにノートをちかつかせていたから、デスノートを持っているのは間違いない。
    だが、今やノートは少なくとも三冊……まだあるかもしれないと考えると、
    ノートを持っているくらいでは、確実にキラだとはいえない。しかし、そのノートを利用できれば……」

 実際にあるノートは変わらず二冊……一冊はさきほどニアに奪われた僕のノート。
もう一冊はニアが魅上が持っていたものをすりかえ、さらにそれを三四がすりかえていたもの。
 ニアはその偽物に気づいていないのだから、ニアからすればノートは三冊となる。

ニア「……そうですね、私もそう考えていました」

レスター「ニア!」

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月「レスターさんの心配は分かります。
   ……ニア、僕が鷹野に会うとき、レスターさんを付けてはどうだろうか。
   僕はキラじゃないが、それを証明する術がない。だから、レスターさんに僕を監視させる。
   鷹野には、新たな協力者、と言えばいいだろう」

 どうせニアもそのつもりだったはず、ならばこちらから言ってしまったほうがいい。

ニア「キラじゃない……ですか。ですがレスター、頼めますか?」

レスター「……それはいいが……」

 やはり……。

 なんとかしてこの状況を打開し……そしてニア、三四を殺す!

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-1週間後・車内-(レスター)

月「レスターさん、そんなに緊張していては鷹野に感付かれますよ」

レスター「……ああ、すまない」

 私はニアに言われたとおり、今から夜神月の協力者として鷹野三四に会いにいく……。
本当にそんなことをして大丈夫なのか……? ニアは何を考えているんだ……。

 私がニアに頼まれたこと。それは、鷹野三四のノートを探し、それをすりかえることだ。
以前も同じ策をとったからと、夜神月にはそのことは今のところ伝えていない。
まさか同じ策でくるとは思えないだろうから、そこに隙が生まれるかもしれないからなのだろう。

 しかし、鷹野はM……つまり私達の捜査状況を知っていた人間……。
ノートをすりかえることに気づいていないはずがないと思うが……それすらも逆手にとるということか?

月「レスターさん、何か書くものはありませんか?」

レスター「ん……ああ、あるが……どうするんだ?」

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月「まず確認ですが、鷹野のところに行けば、僕はニアを殺すための行動をします。
   勿論、鷹野に協力しているふりをする、という意味です」

レスター「……それは分かっている」

月「紙には、そのための策をあげていこうかと。
   口頭でもいいのですが、こうして後に証拠になりそうなことをしておくことで、
   鷹野の信用を買えるかもしれません。
   自分も捕まれば、この証拠から夜神月も捕まる。そう考えるかもしれない、ということです」

レスター「……分かった。だが、今は運転中……。
      ニアに、もしそういうことがあれば内容をチェックしろと言われている。紙は後で渡す」

月「分かりました」

 確かに利にかなっていると思うが……夜神月に紙を渡し、何か書かせる……もしそこに私の名前が書かれたら……。
……? 何を考えているんだ私は。紙もペンも、こちらが用意するもの……デスノートなどでは断じてない。
いかん……ノートというものを意識しすぎて、ただ物を書くという行為にすら、過剰に反応してしまう……。

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-同じ頃・二人の会話を盗聴中-(ニア)

ニア「……」

 紙……夜神月にそれを持たせると、どうにも嫌な気分になる……まぁ、デスノートでなければ問題ないことだが。
だが何をする気だ夜神月……お前はもともとミヨと協力関係、または主従関係のようなものにあったはず。
今更証拠として残す……それに何の意味があるというんだ。

ニア「メッセージ……暗号……」

 それしか考えられない。レスターではそこまで考えが及んでいないだろうが……後で連絡する必要があるな。

 しかし夜神月……お前は本当によく動く。確かに私には、お前をキラだとする確信はあっても、確証はない……。
だが、これ以上動けば本当に自分がキラだという証拠が出てしまう……そう考えないのだろうか。
 私を殺し……そしてまた犯罪者殺しを始める……お前の考えなど私には分からないが。

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 夜神月はデスノートを持っていたが、今更それは証拠にはならない。
 以前は日本捜査部にあったわけだし、今はデスノートが何冊出てきても、私は驚かない。
それはつまり、キラでなくてもノートを持っているかもしれない、ということだ。
ゆえに、ノートがあるからという理由で、キラと断定することはできない。

 だがノートを使えば……それはキラだ。

 となれば、やはり私やレスターの名前を書かせること……キラの敵である私達を。
同じ策をとるのは考え物だが、これしかない……。

ニア「魅上照……鷹野三四……。……夜神月」

 この三人……一人が捕まれば他の二人を捕まえるのは容易……。
夜神月は恐らく難しいだろう……となると、やはりミヨ……こいつを落とすしかない。

 ノートのすりかえ……Mであるミヨにとっては想像できることだろうが、
ミヨは、私がミヨはそのような想像が出来ている、と考えることができるはずだ。
 つまり、そんな安易な策はうってこない……そう想定するはず。

 非常に危険だが……もはや私は……。

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-数時間後・元日本捜査部前-(レスター)

 夜神月の案内でここまで来たが……えらく遠回りをさせられたようだ。当然といえば当然だが……。

月「レスターさん」

レスター「ああ。書いたら私に見せてくれ」

月「分かりました」

レスター「……」

月「……こんなかんじですかね」

”僕の策をここに記す。
  1つの策として以下のようなものが考えられる。
  とりあえずいえるのは、
  隙を作るということだ。
  リドナーの時のように、SPKの誰かを取り込むのがいいかもしれない。だが以前は、
  かろうじて成功しただけだ。偶然に過ぎない。
  Lの息にかかった者……ニアを敵にしている以上、
  注意しなくてはならない。

  もう1つ考えられるのは――”

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レスター「……」

 別に変わったところはない……か? 1つ気になることがあるとすれば……。

レスター「文章を書いたのか。箇条書きにでもするのかと思っていたが」

月「はい、この文章は一応こちらに置いておくものですので、後で読み返したとき、こちらの方が分かりやすいと思って。
   鷹野の仲間になったと想定したら、そういう結論になりました」

レスター「なるほど……」

 これは後で写真を撮り、ニアに送るだけでよさそうだが……何かあるとも思えないな。

レスター「さて、行くか」

月「決してニアの手の者だと悟られないようにおねがいします」

レスター「ああ」

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-捜査部内-(鷹野)

月「三四」

鷹野「あら……陽くんじゃない」

 あらあら……これは意外な展開ね……。
 魅上を信用させるには、まずは月の解放が必要だった……でも、それがそちらから転がりこんでくるとは……。

レスター「……失礼する」

鷹野「……そちらは?」

月「カーターさんだ。僕がニアに捕まりかけたのを助けてくれた。これから協力してもらうことになる」

 ああ、なるほど……そういうことねぇ。
 あのニアがそう簡単に月を見過ごすはずがない……いえ、魅上の時のことを考えれば、軟禁または監禁は必ずする……。
それをしてこないとなると、ニアは月がキラだという確たる証拠がなく、また、私という新たな邪魔者も排除する必要がある……。

 そこで月を利用した……。

 そうなると、そのカーターというのはSPK……ニアが出てくるはずはないから、レスターね。
魅上がこちらにいることを知っているのでしょうから、そのカーターというのは本名……。
偽名を使うことに意味はないから、いっそのこと、ということね。

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 ……となると、ニアの取る策は……他愛のないこと……。
 でもその策は利用できる……私はニアの顔を覚えていないから、少なくとも一度はニアに会わなくてはならない……。
あれだけワイミーズハウス時代に追ったニアなのに覚えていないなんて、本当に無様だわ……。
 私が追ったのはニアという存在だった、からなのかしら……。

月「まずはすまない三四、失敗してしまって」

鷹野「次の策はある……大丈夫よ」

 恐らく魅上も、カーターがSPK関係者だというのはすぐに気づく……そうなると、ニアの本名はまだ聞けない……。
ならばしばらくは、この茶番に付き合うしかないようね。

魅上「かm……失礼、夜神月さんでしたか?」

月「ああ……確かYB倉庫にいた……」

魅上「魅上照です」

 魅上は月のことを神を言いかけた……やはり今は、明らかに月側についている……。

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月「しかし三四、お前も新しい協力者を得たんだな」

鷹野「ええ。やはり仲間が多い方がいいからね」

 月……あくまで魅上のことは知らないというので通すつもりね。
自分が死神の目を持たせ、ノートを与えた者。ニアから見た、厄介な敵……そのどちらでもなく。
たしかに、今の月の立場からすれば、そのどちらをとっても、一方はニアに対して、一方は私に対して不利になる……。

月「これからどうする、三四」

鷹野「……陽くんの意見を聞こうかしらぁ?」

 私の考え……まずは魅上を取り込むということは、分かっているはず……。
そして月は、魅上からニアや私の名前を聞き出すことを目的にしている……。
でもそんなことをさせる隙は与えないし、そもそも月は、ノート本体はおろか、切れ端すら持っていないはず……。

月「そうだな、まずはこれを見て欲しい」

鷹野「……?」

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鷹野「これは……」

月「ある程度僕の考えをまとめておいた。もっとも、分かりきったことかもしれないけど……」

 本当に分かりきったことばかり……。こんな紙になんの意味が……。
……! これは……。

鷹野「だいたい把握したわ」

 夜神月……私をバカにしているの? ニアの取ってくる策……私が想定できないとでも思ったのかしら!?
まぁいいわ……これで月は、完全にニアの監視下にあり、動けないことの証明になった……。

 つまり私が考えるのは、やはりニアのことだけということね……。

月「魅上さんも見てください」

 ……そうなると、やはり早く、魅上を……!

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-同じ頃・会話を盗聴中-(ニア)

ニア「……」

 さきほどレスターから送られてきた、夜神月が書いた紙の写真……。
 一見は、確かに普通の文章……だが、一応暗号らしいものが隠されていた。

 最初の1行以外、なぜか1文字分ずらして書かれていたのが気になり、よく見てみると、
その部分に、縦読みの文章が現れる。1行目は2文字目、他の行は1文字目だ。

 のーとすりかえ。

 ひとまとまりの最後の行に”注意”とあるが、たぶんこれは、ノートすりかえ注意、ということなのだろう。

ニア「こんなことを伝えるためにわざわざ……?」

 だが、あまりに幼稚すぎる。私がこのことに気づかないとでも思ったのか?
そしてミヨが、私の策を想定できないとでも考えたのだろうか。

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 だがこれではっきりした。
 夜神月はもう自分からは動けず、ミヨの行動を待つしかないということが。

 そうでなければ、わざわざこんなメッセージは残さない。

 ならば私のすることは、レスターにそのことを伝え、ミヨをより観察することだ。

ニア「ミヨの尻尾を掴むことができれば……」

 とはいえ、やはり容易ではない。
 実際ノートすりかえの策しか私には残されていないし、それは夜神月にバレ、ミヨに伝えれらた。
 しかし……このことで、かえって逆手をとり易くなった……そう考えることにしよう。

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-1週間後・盗聴中-(ニア)

鷹野『そうね、それがいいわね』

月『じゃあそういうことで――』

 夜神月とレスターがミヨのところへ行くのは、今日で三回目……。しかし、未だ進展はない。
盗聴した感じと、レスターの報告では、今のところミヨはノートを見せることはおろか、
自分が所有している、という言動はおこしていない。

 それにしても、夜神月もそうだが、ミヨは、”ニアを殺す”、ということを何度も口にしている。
私が盗聴していること、レスターがSPKだということは気づいていると思うが……。

 少し前ならば、ミヨを捕まえただろう……しかし……今はそれはできない。
確かに今はミヨを捕まえることを目的としているとはいえ、やはり本来の目的はキラ……夜神月の確保……。

 キラ信者というものは、今や世界中に溢れている……以前SPKのことを夜神月に頼み、
ニュースとして取り上げられたことから、私の存在は彼らに知られているだろう。
 つまり、私を殺そうなどという会話は、キラだけがするものではないということ。
 よって、この程度のことでミヨを捕まえることはできない……。

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 そうなると、後はプライドだ。
 ミヨ、そして夜神月の策を読み、そして上を行く。
 これが達成したとき、彼らを追い詰めることができる。そうなれば……私の勝ちだ。

 キラ逮捕。

ニア「……」

 だが……やはり何度考えても、今回の策は脆い。ノートをすりかえ、偽物のノートに私の名前を書かせる……。
以前と同じ手だ。これまでは、同じ手は使ってこない、というのを逆手をとるという理由で、
なんとか自分を納得させていたが……。

ニア「私にやれること……」

 何か、他に策はないのか……。

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-同じ頃・元日本捜査部-(鷹野)

鷹野「陽くん、それよりもこっちのほうが」

月「……カーターさんと魅上さんはどう思います?」

 ……中身のない会話。ニアを殺す算段とはいえ、どうせニアは盗聴しているのでしょう。
そうなれば、本当の策は話せない。筆談や、場所を変えてしようにもカーターの存在がある……。

 勿論私だけで動ければいいのだけど、まだ月の存在は必要……魅上を取り込むために。
魅上がニアの名前を言いさえすれば私の勝ちなんだから……。

レスター「私はなんとも……」

魅上「私は、三四さんを支持しよう」

月「……!?」

 ……!

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 魅上が月よりも私を支持した……。
 この一週間、魅上と生活する中で、私の考えを刷り込んできた……。
 魅上は犯罪者裁きをするキラを崇拝している……そうなれば、私も同じことをすると言った上で、
さらに理想郷みたいな話をすれば、こちらに転ぶと思ったけど……そろそろといったかんじね。
勿論早まるつもりもない……まだ時期尚早。

 でも私の勝ちが近づいているのも確か……ならば、やはり本当の意味で、ニアに勝たなくては。

 それは、ニアの策を読み、そして上を行く。
 これが私にとって、本当の勝ち。

 ワイミーズハウスでは一度も勝てなかった私が、ニアの上に立つ時がくる。

 そして私は……神になる!

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-捜査部-(月)

 魅上が三四の意見の賛成した……これは、そろそろということか……。

 現状、どう考えても僕が一番不利だ。
 僕がキラとしての証拠は、ほぼニアに握られているといえる。それでも僕がこうしているのは、
癪な話だが、三四が存在しているからだ。
 そしてその三四は、デスノートを持ち、僕の顔と名前を知っている。さらに、魅上を傍に置き、
ニアの名前を知ろうとしている……。

月「じゃあ三四の意見を採用ということで……」

鷹野「あら、どうも」

 だが三四、そしてニア。僕はお前達の策を読み、そして上を行く。
そうなったとき、僕は全ての邪魔者を排除し、新世界の神として、君臨することになるんだ。

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-1ヶ月後・元日本捜査部-(鷹野)

鷹野「さて、時間はかかったけど、だいたいどうするかは決まったわねぇ」

 1ヵ月……本当に無駄な時間だった。
 私や魅上、そして夜神月やニアの手下……話し合いとして集まるなんて……。
 でもこの行動は絶対に必要……私は月よりも照の信用を得るため、月は照からニアの名前を聞き出すため、
ニアは私と月を捕まえるため……。

魅上「三四、それで実行はいつにする?」

 そして魅上は、私を信用している……。今や、月に意見を求めることなどほとんどない。
そろそろ、ニアの名前を聞き出してもいいころね。

月「ちょっと待て、やっぱりその策は安直すぎないか?」

 それにしても月……本当にうるさいわね。時間を稼ぎ、魅上の信用を取り戻したいのは分かるけど、
それじゃあ逆効果……。そもそもこの話し合いは無意味……それは誰しも分かっていることなのだから、
策について必要以上に話す意味はないのに。

 もう魅上の信用はある……ならば、もう月は消してもいいのかしら……?

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-3日後・ニア捜査室-(ニア)

ニア「ノートを……?」

レスター「ああ、ノートをデスクにしまうのが見えた。あれをなんとかすりかえられれば……」

 ここにきてノート……ミヨが油断を見せたということか?
 いや、それにしても……そのノートが偽物という可能性……。そしてノートを私達がすりかえたのを見て、
私を殺す……。いや、それではノートをすりかえるすりかえないに関係なく、私を殺せばいいだけのことだ。

 ……。

ニア「……ミヨは、いつも私を超そうとしていました。その熱意は、メロにも劣りません」

レスター「……?」

ニア「ミヨはこちらの策を読み、さらにそれを覆す……つまり、裏を書いてくるでしょう」

レスター「どういうことだ……?」

ニア「つまりミヨは、私に勝つ、そのつもりで策をうってきます」

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レスター「それはニアを殺すということか?」

ニア「最終的にはそうでしょうね。ですが、それだけではない。
    ……恐らく、ミヨは私達が、ノートをすりかえるという策に出ると、読んでいることでしょう」

レスター「……それじゃあ」

ニア「そして単純に私を殺すのではなく、私に、お前の負けだ、と突きつけてから殺す……。
    ミヨならばそうすると思います」

レスター「……何か策はあるのか?」

ニア「あります。以前と同じ策、です」

レスター「!? やはり逆手にとるということか……!?」

 私はLの意思を継がなくてはならない……ならば、この策しかない。

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-同じ頃・元日本捜査部-(鷹野)

魅上「三四、話がある」

鷹野「あら、何かしら、あらたまって」

魅上「……私が三四に解放してもらってから1ヵ月以上が経ち、ようやく落ち着いてきた。
    それで……」

 ……!

鷹野「ニアの名前……思い出したというわけね?」

 ついにきた、魅上が完全に私を信用したこの時が!

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 これ以外の準備は整えていた……あとやるべきことは2つだった……。
その2つのうち難しいと思っていたほうが、ようやく実現する。

 こうなると、あとは待つだけ……。もう1つの方……カーターが私のノートをすりかえるのを。

 前にデスノートを、一瞬だけカーターにも見えるように机にしまった……
これでノートの在り処が分かるでしょう。勿論月には気づかれていない。

 ニア……月が幼稚なメッセージでその策をバラしたけど、あえてその策をとることで、
裏をかくつもりだったんでしょうね。
 でも、結局ニアは、その策しかとれない……ここまでくれば、私や月がキラだという証拠は、
自白やノートを使うことしかないのだから……。

 そして私はその策に乗ることで、ニアに会うことが可能になる。
ニアは、私が偽物のノートに自分の名前を書くのを、意気揚々と見にくることでしょう。
 そしてその策を超えることで……私の勝ちになる。

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-1週間後・ニア捜査室-(ニア)

レスター「なんとかすりかえは成功した……が……ジェバンニのように精度が高いものは……」

ニア「いえ、いいです」

 ……これは予定調和……ミヨがすりかえに早く気づいたほうが、今後の展開が早くなるからいい……。
この策は、私がすんなりと、ミヨの前に現れる口実に過ぎない。

 恐らくレスターは、すりかえを行わせるために殺さなかったのだろう。
そうでなければ、何かと行動の邪魔になるレスターを生かしておく意味がない。
いや……私が妙な動きをしたときのために、とっておいたのかもしれないが……。

ニア「そろそろ、ミヨから呼ばれるでしょうね」

レスター「……ニアが、か?」

ニア「はい」

 すりかえたノート……このノートは本物であった。
 今まで一度もためしたことがなかったが、今回はそうも言っていられない。さきほど死刑になる人物を探し、
そいつの名前を書いたのだ。
 すりかえたものは偽物であると踏んでいたが……。

 さて……ミヨ……決着をつけよう。

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-3日後・ニア捜査室-(ニア)

鷹野『そろそろ実行のときね』

月『あまり気が進まないが……』

 やはり来たか……ミヨ……。お前はレスターがノートをすりかえるのを待ち、
自分が動くタイミングを探していた……。

鷹野『じゃあ月、後は頼んだわよ。あなたはニアに監視されているのでしょうから、
    ニアを呼び出すのは可能なはず……。
    もっとも、ニアがそう簡単に動くとは思えないけど……』

 堂々と言ってくれる……これは夜神月に言ったというよりも、私に言ったのだろう。

月『……ああ、なんとかしてみる。場所はYB倉庫でいいんだな?』

 YB倉庫……因縁だな。またあの場所に行くことになるとは……。

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-数時間後・ニア捜査室-(ニア)

月「ニアも聞いていたと思うが、三四は僕がニアと共にいることに気づいていた……。
   こうなると、レスターさんも気づかれているはず……僕やレスターさんは殺されるのでは……」

レスター「……」

ニア「……いえ、それはないでしょう。あなた達を殺すのは、私の名前が分かってからです」

 ……ミヨは私の名前が分かったのだろうか? 魅上が教えた……いや、それならば今でなくてもいいはず。
魅上を解放した直後にそれはできる。
 ……今思えば、まさかミヨは、私の顔を覚えていないのではないか?
私はどちらかといえば内向的……皆が居ないところで、一人でいることも多かった……が……。

 どちらにしても、名前が分からないなら魅上が、顔だけ分からないならミヨが、私の顔を見ることで、
ミヨの策は実行されるだろう。

 念のためまたLの面を付ける……が……これはほとんど意味がないことだ。
もしYB倉庫に行った時、しばらくして夜神月とレスターだけが死ぬようなことがあれば、
ミヨを逮捕できるのだが……。

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月「ニアから何か条件を提示するか?」

ニア「そうですね……今回YB倉庫に行くのは、以前とは理由が違います……が、やはり通信器などはタブーにしましょう。
    もう私の顔は割れたので、この条件はミヨに有利なだけですが、これがなければこないかもしれない」

月「来たとしても、音声が他のところに転送されるのを警戒して、核心を突けないということか」

ニア「はい」

 それは夜神月……お前もだ。
 しかし夜神月……お前はあの幼稚な暗号以降、目立った動きを見せていない……
本当にSPKの捜査員になったかのようだ。こちらを油断させるということか?

 ……。

 夜神月の勝ちは、私とミヨを消すこと……そんなことが、今の状態ではまず不可能だが……。

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-10日後・YB倉庫-(鷹野)

ニア「来ましたね……ミヨ……第2のキラ」

鷹野「あら、早いのね、ニア」

 そうやって揺さぶりをかけようとしても無駄よ……ニア……今日あなたは死ぬ。

月「……」

ニア「それで、今日は私に何の用でしょうか」

 建前はそれでいい……ニアは何も盗聴していない。
 でも、このメンバーの中でそんなものが必要なのかしら。

鷹野「その前に……そのお面は何?」

 それはLのお面……かしら……。

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ニア「……念のためです」

 でも……あなたがそうするのは当然……。
 もしこの場でしばらくして、月とカーターだけ死ぬようなことがあれば私を捕まることが可能になる。
ここでそんなことが起これば、誰の目からも、それは私は魅上がやったことになるから……。

 だけど、それは私も分かっていたこと……だから、まだ誰の名前も書いていない……。
どうせニアの顔だけ分からないから、ここで書かないといけない……後はついでに書けばいいのだから。

 そしてニアもそのことは分かっているはず……自分がお面を取らなければ、事態は何も進まない……。

鷹野「まあいいわ。そのうちはずしてくれるんでしょう」

 ……ニアが建前でくるのならば、こちらも時間稼ぎのために、建前で行きましょうか……。

鷹野「それで、今日ここに呼んだのは他でもない、キラ事件についてよ」

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ニア「……」

鷹野「私はニアについていきキラを追っていたけど、それだけではダメだと思った。
    だから照を解放し、何か手がかりを掴めないかと思ったけど……」

ニア「私はあなたを盗聴していました。その中で、キラ捜査をしていたようには思えませんでしたが」

 あら……盗聴のこと、意外とすんなりと言ってしまうのね。

鷹野「あなたが盗聴していたのは、月達がいるときだけでしょう?
    私は私の考えをあまり知られたくなかった……だから、あえてあんな話を……ゴメンなさいね」

ニア「……」

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鷹野「それで、このノートを見て……私と照の考えが書かれているわ……」

 これはただのノート……ニアがすりかえたものでなければ、
ましてデスノートでもない。
でも、こうやってノートがあるのが不自然でない状況にすることで、
他のノートを出しやすくなる……。

 ニアがすりかえたのは、本物のデスノート……もし本物か調べられたら困るから……。

 でも私は、デスノートの1ページを持っている……あらかじめ用意したノートの切れ端。
これで、ニアが本物のノートを持っていようとも関係ない。ここにニアの名前を書く!

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-30分後-(鷹野)

鷹野「ねぇニア……そろそろ顔を見たいわぁ……」

 そろそろいいでしょう……ニアも、ここまで時間がたてば、警戒を解くはず……。
そして私に、偽物のノートを使わせようとする。

 でもダメよニア。私が使うのは偽物じゃない……本物のデスノート!

 だけど、すぐに名前を書くのはよくない。こうなることを予想して、さっき出したノートには、
いろいろなキラ事件に関することが書かれている。
まだその話を続け……何かノートに書くことが必要な話題が来たら……ニア達の終わり。

ニア「……分かりました」

レスター「ニア……」

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ニア「……」

鷹野「……お久しぶりね……ニア」

ニア「……はい……ミヨ」

 そうか……これがニア……。確かに記憶の片隅に、こんな人物が存在していた……。
以前はとても大きな存在のはずだったのに……今は小さい。

 私の勝ち。

 それが目前に迫っているからかしら……?
 何にしても、これでニアの顔は分かった……名前はすでに照から聞いている……。
後は話題を誘導すれば……。

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魅上「……そろそろ相関図を書かないか?」

 ……! さすが照ね。

鷹野「そうしましょうか。……じゃあ私はここからここを書くから、照はそっちを」

魅上「分かった」

ニア「……」

レスター「……」

 ようやく、ようやくこのときが……落ち着いて……もしここで止められでもしたら終わり……。
ニアも月もこちらを見ていない……今がチャンス……!

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 たった3人の名前を書くだけなのに、恐ろしく時間が長く感じられた……でも、終わった……。
あと40秒……あと40秒で私の勝ちになる……。

 勝利宣言はいつしようかしら……もし下手なタイミングで言って、レスターに撃たれたら……
それこそお笑い者だわ。……いえ……35秒。35秒で勝ちを宣言しましょう。

ニア「……」

魅上「夜神さんとニアの関係はこうなるわけだな」

 照……あなたが私を信用してくれたから、私の勝ちは実現した……。
あなたはずっと、私の側近として働く……私は神になり、あなたはその従者……。
 あたなにはその資格がある……。

 あと10秒……ということは、あと5秒で勝ち宣言ね……。

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 5秒たった……ニアが死ぬまであと5秒……!

鷹野「……ニア、私の勝ちよ」

ニア「……!」

 3、2、1……! 

 さよなら、ニア。私はあなたを超えたわ。

ニア「……」

月「……」

 ……。

鷹野「……?」

ニア「……?」

 ……ニア? なぜあなたはそこに座り続けているの……こちらを見据えて!

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ニア「”私の勝ち”……そう言いましたか、ミヨ」

鷹野「……!」

 待って、何が起こっているの、これは!!

鷹野「これは……いったい……」

月「残念だったな、三四」

鷹野「……!?」

ニア「……!」

月「本物はこっちだ」

 何……何を言っているの、月は!?
 私が手にしているこのノートの切れ端は、間違いなく本物のデスノートのはず……。
今まで私がずっと、肌身離さずもっていた……。

 でも、実際誰も死んでいない……まさか、本当に……!?

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鷹野「く……それを渡しなさい!」

 夜神月! 私が隠していたノートの切れ端をすりかえたのは見事……でも、
ここに本物を持ってきたのは大きな間違い!

月「三四、待て! うわ!?」

 バカね、頭ばかり使いすぎて身体のほうが鈍ったのかしら!?
これにもう一度ニアの名前を書けば!!

レスター「何をしている!」

ニア「……待ってください、レスター。
    L……そのミヨが持っていたノート、貸してもらえますか?」

月「ああ、分かった」

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鷹野「書いた、書いたわぁ! あなた達は、今度こそ全員死ぬのよ!!」

ニア「……ミヨ……鷹野三四。お前はここに書いたのと同じことを、またそのノートに書いたのか?」

鷹野「……? 当然じゃない!」

 何を言っているの、ニアは。死を目前にして頭がおかしくなったんじゃない?

ニア「それなら、私達は死にませんよ。名前が間違っていますから」

鷹野「……」

 名前が違う……? 私は魅上に聞いたとおりの名前をちゃんと……。まさか間違えた……!?
でも、月が持っていたノートの切れ端に今書いたのも、私の記憶どおりのもの……。

”Nate Siver
 夜神光
 Banthony Carter”

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-YB倉庫-(ニア)

 鷹野が名前を間違えてた……? いや、それならば、魅上が覚え間違えをした、というのが妥当だ。
だが、これは……夜神光……だと……。

魅上「無様だな田無美代子。いや、見苦しい。名前が美しい代物なのに、名前負けだな」

鷹野「照……!?」

 タナシ……ミヨコ……! 魅上……!!

ニア「……L……夜神月……キラ……やってくれましたね」

月「何のことだ、ニア」

 やはり40秒たつまではとぼけるつもりか……。

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鷹野「何、どういうこと!?」

ニア「私は、あなたが動かないのをずっと疑問に思っていました……が、どうやらそうではなかった。
    動く必要がなかった……ということですね」

月「……」

レスター「ニア……? ……!? ぐああああ!?」

 レスター……!? 先にレスターの名前を書きましたか、夜神月……。
銃を持っているのは彼だけ……。

 ということは、私やミヨが死ぬのは、少し後にしたということ……自分の勝ちを宣言するために!

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-YB倉庫-(月)

月「くくく……あーっはっはっは!」

鷹野「……!?」

ニア「……」

月「さすがと言っておこう、ニア。僕の策に、今さらといえど気づいたこと。
   そしてノートに名前を書かれたことに気づいても、その落ち着きよう」

 ニアはすでに死の覚悟をしていたはずだ……ならば当然ともいえるが。

鷹野「どういう……ことなの……?」

月「まずはこれを見るといい。さっきお前が捨てた、お前が最初に持っていたノートの切れ端だ。
   ……このノートは本物。ニアに渡す前に、端をちぎった」

”Aanthony Carter
 多梨美代子 多無美代子 田梨美代子 田無美代子
 NateRiver”
 
鷹野「……!?」

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月「三四。そろそろ時間だ。お前の……負けだ!」

鷹野「な……何で私の名前を!? いつ、いつどこで誰に!?
    そのノートは本物……!? 私はニア達の名前を書いても死ななかったのに!」

 そうか、4つ書いたうちの1つは当たり……。
 正直賭けだったが、僕は賭けに勝ったようだ。

月「ニアが言っただろう。名前が間違っていたと。
   それと、僕の名前は夜神月……光じゃなく、月だ」

鷹野「そう……そういうこと……照……あなたは……。
    ……!? うぐ……あ……夜神月……だったのね……ならばどちらにしても……」

 ……。
 所詮お前はその程度の女だ、三四……。

-----

月「さてニア。お前もあと僅かの命だ。じっくりと負けの味を噛み締めろ」

ニア「……。私はミヨに殺されるとばかり思っていましたが、正直意外ですね」

月「……冷静だな」

ニア「……初代Lが死ぬときは、どうでしたか……?」

 ……。

月「……僕の勝ちだ、ニア」

ニア「……やはり……私は……間違って……いなかった……が……ま……」

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 ……。

月「魅上……よくやってくれた」

魅上「いえ……私は神の仰せのとおりにしたまでです。それよりも、数々の非礼をお許しください」

月「いや、もともと僕が指示したことだ。謝罪なんて必要ない」

 ニア……三四……お前達は気づかなかっただろう。僕が魅上に指示を出していたことを。
あの幼稚なメッセージが全ての鍵……あれでお前達は、僕を見下したことだろう。

 だが!

 それこそが僕の狙い、僕のしかけた罠だったんだ!

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 あのメッセージを書いたとき、僕はレスターに見られていた。だが、手元を覗き込むのではなく、
対面から僕の様子を伺っていただけ……つまり、書いている途中では、何が書かれているのか分からない。

 人は、手元が見えない状態で文章などの長いものを書かれると、実際にどれくらい書いているのか、
よく分からなくなる。だからこそ、僕は文章を書いたんだ。

 そしてそのとき……僕は自分の手にも、文字を書いた。
 見ている相手がニアや三四ならば無理だっただろう……が、レスターならば、なんとかなった。

 逆にニアや三四からすれば、そんなことはすぐに気づけることで、僕がそれをしてくるなどとは、
考えられない。

 たったそれだけのことで、僕は今を迎えた。単純なトリック……いや、トリックですらない。

 そしてそれを、魅上に見せた。
 このときのために、僕はあの無駄な、長いメッセージを書いたんだ。

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 あのメッセージは、縦読みで”ノートすりかえ注意”とするように書いた。
 ニアや三四はすぐ気づいただろう、そして、自分達をバカにしていると感じたはず。

 そしてニアは、”夜神月は鷹野三四が動かないと何もできない”と感じ、
三四は、”夜神月はニアに監視され、身動きがとれない”と思ったはずだ。

 これこそ、僕の狙いだったんだ。

 そうすることで確実に隙が生まれ、その後に、あのメッセージを魅上に見せると同時に、
手に書いた、本当のメッセージを見せた。

 人は人をバカにすると必ずおごる。一瞬でも、必ずだ。その瞬間に、僕は魅上に指示を出した。

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月「それにしても魅上……お前は本当によくやった。あの短いメッセージでここまで……。
   さっきの三四の名前の件もそうだ。三四は後で殺す手もあったが、あそこで殺したほうが都合がいい」

魅上「いえ……ありがとうございます」

 僕が魅上に指示したこと。それはたったの三点。

・ミヨをしんようするふり
・ニア、カーターのなまえ一文字目をずらしてミヨに言え
・夜神光

 自分の手に書く、しかもレスターの監視下で行うことになり、詳細は書けなかった。
しかし、魅上はそれを実行した……。
 やはり使える……!

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 この指示があったから、僕、三四、魅上、レスターでの、無駄な話合いが続く中で、魅上は僕ではなく、
三四を支持していた。そうすれば三四は、魅上が自分を信用したと思い込む。
 そうすると三四は、魅上を信用してしまうことになる。三四自身気づかないうちに……。

 そうなれば後は簡単だ。頃合を見て魅上が、ニアとレスターは、名前の一文字目をずらしたもの、
また、僕の名前は本当は夜神光だった、といえば、三四は勝手に動く。
 僕の名前を方を信じるかは微妙なところだったが、リドナーのときに盗聴していたのならば、
より信ぴょう性が増しただろう。

 そしてニアはニアで、僕に注目していないから、三四を罠にはめようとする。
ノートすりかえ……結局その策でくるとは、やはりたいしたことはないな……ニア……。

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 また、三四がニアのノートすりかえを読み、デスノートの切れ端を隠しておくことは、容易に想像できた。
ニアは僕に、ノートすりかえの策のこと、そしてそれが実行されたことを言わなかったが、
YB倉庫へ行くことを了承した時点で、その策を取るということの証明になった。

 ここまで分かっていれば、勝利への筋道を立てることは簡単だ。

 まず三四に、自分の持つ本物のデスノートへ、間違った名前を書かせる。だがニア達は死なず、
そこで僕は、用意しておいた、ただの紙切れを見せる。
 三四は、ニア達が死なないことで、その紙切れを本物のデスノートだと思うだろう。

 そして自分が持っていた本物のデスノートを捨て、僕に飛び掛る。
僕はわざと紙切れを渡し、三四が捨てたデスノートを拾い……名前の1文字目をずらして書く。

 ニアは最初にNと名乗っていたからファミリーネームの方を変え、レスターはカーターというふうに紹介済みだったから、
ファーストネームの方を、魅上は変えたのだろう。実際それらをずらすと、ニア達は死んだ。

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魅上「神……これからどうしますか?」

月「邪魔者は全て死んだ……また犯罪者裁き……そして新世界の創世だ」

 そう……邪魔者は消えた……。
 L……ニア……メロ……三四……。

 お前達は新世界の神に抗った罪で、殺されることになった! 本当に愚かな者達だ。

リューク「なぁ月、そういえば弥海砂はどうするんだ?」

 このタイミングで……。

月「……殺してもいいが……まぁどうせデスノートの記憶もない。
   結婚でもなんででもしてやるさ」

リューク「うほっ」

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月「そろそろ行くか。ここにいつまでもいるのはまずい」

魅上「鷹野三四が準備していた逃走方法があります。それを使いましょう」

月「分かった」

 三四……最後だけ役に立ったな……。

?「そこまでです。夜神月、魅上照」

月「!?」

ニア『あなたの負けです』

 な……ニアの声……!? そんな、まさか……!

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魅上「誰だ!」

ロジャー「ロジャーという者です……ワイミーズハウスの管理をしています」

 ロジャー……ワイミーズハウス……ニア……!
 ロジャーと名乗る老人の後ろには、銃を構える警察……いや、FBIか……?

 なぜこんなことに……! それとさっきの声は……?

ニア『今そこにいるのは、夜神月でしょうか、鷹野三四でしょうか。鷹野三四の可能性が高いです……が、
    夜神月……お前は何をするか分からない……こちらの可能性も十分あるでしょう』

ロジャー「これは、ニアが数日前に私に渡した音声データです……」

 音声データ……!

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-5日前・ワイミーズハウス-(ニア)

ロジャー「……! ニア……今なんと……?」

ニア「私は、自分の死を持って、鷹野三四、夜神月、魅上照がキラだと、証明します。
    もうこれしか、残された方法はありません」

ロジャー「本当に……またやるつもりなのか……?」

ニア「はい」

 私はLを継ぐ者……Lには劣るのは分かっている……が、それでもLの真似事だけはできる。
Lは、自分の死を以って、史上最悪の殺人兵器の存在……デスノートの存在を明かした。

 ならば私は……それによって、キラを明かす……。

 この策は……一度目のYB倉庫のときもとっていた。
万が一、あそこで私が死ぬようなことがあれば、これと同じ策を取るつもりだったが……
キラが捕まるわけでもなく、私が死ぬわけでもなく、こんな形になるとは……。

 自分が死ぬことで解決、なんてバカげているのは分かっている……が、
むげに死ぬくらいならば……。

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-時間軸戻る・YB倉庫-(月)

ニア『鷹野三四……お前が、私の策……ノートすりかえを読んでいることは分かっていました。
    そして本物のノートが私の手元にあるということは……お前は切れ端か何かを持っているのでしょう』

 ニアは自分の命を捨て……どちらか残った方……僕か三四に対して負けを突きつけるため、
こんな音声を残したということ……なんてことだ……。

ニア『私はわざとその策に乗った……。そうすれば、私がお前の前に現れるのは不自然でない。
    自分の策は成功し、鷹野三四を捕まえられる……そう私は考えていると、お前は思うでしょう。
    だが違う……私は、実際のところ負けなのかもしれない……殺されていますから。
    ですが、本当の意味では私の勝ちです』

魅上「……」

月「……」

-----

ニア『夜神月……お前は、あのメッセージ……縦読みというくだらない暗号を残した後、何も動きを見せない……。
    お前は、いつも積極的に動いていた……その意味では、私は不気味でしょうがなかった。
    だが、もし策があり、今そこにいるのならば……私はお前を読みきれなかった。その点では私の負けですね。
    ですが……今お前のいる立場を考えてみれば、そうも言っていられないでしょう』

月「ぐ……!」

ニア『鷹野三四……夜神月……魅上照……。お前達がキラだ!』

魅上「……! 神、奴らの名前をそこに!」

月「分かった!」

ロジャー「動くな!」

月・魅上「……!!」

ロジャー「あなた方は、自分の置かれた状況を分かっていない」

 分かっている……分かっているからこそ……。

-----

ロジャー「まずデスノートそこに置いてください。それ以外の行動を取れば撃ちます」

月「……」

リューク「くくく、どうするんだぁ、月ぉ」

 どうするもこうするもない……いかにデスノートをいえど、何十人という人間から銃を向けられたら、
成す術がない……。

 ……だが。

 僕はLやニアといった、僕には劣るが、それなりに優れた人間を相手にし、そして打ち勝ってきた。
ならば、それに遠く及ばない連中が何人いようとも、僕の敵ではない。

 どうせ、奴らは僕や魅上は殺すつもりはないのだろう。ならば……付け入る隙はあるはずだ。

-----

魅上「神……」

月「……大丈夫だ……が、今はあいつらに従うしかない」

リューク「本当に大丈夫なのかぁ? このままお前が牢獄行きなんてなったら、
      俺がずっと退屈じゃないか……だったら……」

月「待て! 僕は新世界の神だ。こんなことで負けるわけがない」

リューク「ふーん」

 そうだ……僕は新世界の神……。
 新世界の意味も分からぬこんなバカどもに負けてたまるか。
 そして僕は……。

 ……!?

-----

 な……何だ、急に胸が……!?

月「ぐあ……」

魅上「神……!?」

ロジャー「?」

 まさか……まさか……心臓麻痺……!?

月「りゅーっ……くっ!」

リューク「おい何だよ、俺は何もしてないぞ」

 確かに……リュークはさっきから何も……。
まさか魅上が!? いや、ここに来てそれはありえない……。
 ニア……それこそありえない……。

-----

 ……! 鷹野……三四……!
 あいつは死に際、なんと言った!?

”そう……そういうこと……照……あなたは……。
  ……!? うぐ……あ……夜神月……だったのね……ならばどちらにしても……”

 ”どちらにしても”……まさか、これは……。

 すでに”夜神月”はデスノートに書いたから、どちらにしても死ぬ。

 そういう意味だったのか……!

-----

-23日前-(鷹野)

 そうね……やはり月を消しておくべき。
 それは、魅上がニアの名前を私に教えるまでするべきじゃないけど……あと1週間もすれば、
魅上は完全に私の物……。

 でも……もし夜神月、というのが本名じゃなかったら?
 今さらだけど、この可能性はないとは言い切れない。

 月はデスノート最初の所有者……そしてそれゆえに、顔と名前、それらの重要性はよく分かっているはず。
ならば、デスノートを使おうと思った時点で、偽名を使うことも同時に考えたのでは……?

 ありえない話じゃない。実際、リドナーを仲間に引き込むとき、夜神光が本名とも言っていた……。
それを聞いたときは、でまかせかとも思ったんだけど……。

 いえ、だとしても同じこと。大事をとって、殺すのは23日後にしておきましょう。
そしてその23日後に、YB倉庫でニア達と対峙するようにすればいいわね。
月の本名は、後で魅上から聞けばいい……今の魅上なら、それくらい答えてくれるはず……。

”夜神月 心臓麻痺 23日後死亡”

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-時間軸戻る-(月)

 ……そうか……僕は、三四、そしてニアに勝った……。
デスノートを使って奴らを殺し……物理的には僕の勝ちなんだ……!

魅上「きゃ……神ぃ!」

 しかし……僕は結局、ニアには策で負け、そして三四に殺される……。
自分の命を賭けたニア……そしてデスノートを持っていることで、常に優位に立っていた三四……。

 僕は負けたのか……二人に……。

 死……。

 死……?

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月「リューク……僕は死ぬのか……!?」

リューク「さぁな。俺の目にはお前の本来の寿命が映ってるから分からないな。
      だがデスノートに書かれたのならば……お前は死ぬ」

 僕の負け……死ぬ!?

月「な、なんとかしろ、何か手はあるんだろ……!?」

リューク「その答えは、お前が一番よく知っているはずだ」

月「ぐあ……死にたくない……逝きたくない……死にたく……」

 ……。

ニア『……全て終わったんです……夜神月……L……』


        -完-


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