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    けいおん部でライアーゲームをするようです!

     第1ラウンド


-唯-(音楽室)

さわ子「ライアーゲームをするわよ! 勝った人にこれ、全部あげちゃう!!」

 さわちゃんのギターが、50万円で売れました!

 だけど、りっちゃんが1万円で売れたなんていったせいで、
さわちゃんがこんなことを言い出してしまいました。

律「ちょ、それってあれだろ、ドラマでやってた!
   本当にそのお金くれるんだろうな、さわちゃん!?」

紬「なになに、どんなゲームをするの!?」

梓「50万円を賭けたゲームだなんて……あわわ」

澪「ちょ、皆落ち着け!」

唯「ライアーゲーム……!」

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-主観の人物名-(場所・状況など)  で進行。

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さわ子「いつかやってみたかったのよね、こういうディーラーみたいなこと! 早速ゲームの説明しちゃうわよ〜!」

律「私はこういうゲームがしたかった! よし、どんとこーい!!」

紬「ど、どんとこーい!!」

唯「よし、頑張るよー!」

澪「み、皆! 50万円だぞ、そんな大金賭けたゲームなんてできるわk」
律「じゃあ澪しゃんは50万いらないんでちゅねー? ライバルが1人減ったぞー!」

澪「お、おい、誰も参加しないなんて言ってないだろ! あ、梓はどうする!?」

梓「50万円もあったら、エフェクター買って……ピックアップ交換して……」

唯「あずにゃんやる気まんまんだね!」

梓「や、やめてください唯先輩!」

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さわ子「じゃあ、こんなときのために考えていた、とっておきのゲームの説m」
憂「待ってください!」

唯「おー、憂ー」

 マンガだったら、”ドンッ”ていう吹き出しが出そうなかんじで、
憂が音楽室に入ってきました。後ろに純ちゃんもいます。

憂「すいません、ちょうど音楽室に用があったんですけど、みなさんの声が聞こえてしまって……。
   あの、私もそのゲーム、参加させてください!」

律「じゃあちょうど澪が抜けたし、代わりってことでー」

澪「だから参加しないなんて言ってないだろ!」

律「あいたー!?」

 新しい楽器の誕生なのかな、と思うほど、よく響くりっちゃんのおでこ。澪ちゃんの拳がさく裂しました。

さわ子「私は何人になろうとかまわないわ。あなたはどうするの?」

純「わ、私は先生側で……手伝います」

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さわ子「じゃあ、この6人が参加ってことでいいわね。今度こそ説明を始めるわ」

澪「なんでこんなことに……」

さわ子「皆にやってもらうゲームは……”王様と奴隷ゲーム”よ!」

紬「王様と……」

律「奴隷……」

さわ子「リハーサルをしながら説明するわ……唯ちゃん、王様の役、やってくれる?」

唯「合点!」

憂「お姉ちゃん頑張って!」

梓「いや、応援するところじゃないから」

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さわ子「このゲームは、王様になった人が、平民の中に紛れた奴隷を探すゲームよ。
     王様は平民には強いけど、奴隷にはやられてしまうって、どこかのグループの偉い人が言ってたわ。
     だから、王様は奴隷を躍起になって探す……そんな概要ね」

澪「唯が王様役……ってことは、私達が平民役ってことですか?」

さわ子「そうよ。王様以外の5人のうち、4人が平民。そして残りの1人が、奴隷役ってわけ。
     それをどうやって決めるかというと……鈴木さん、トランプ持ってる?」

純「はい、持ってます」

さわ子「えっと……これとこれ……ね。はい、唯ちゃん以外の5人は、他の人に見えないように、
     このトランプを引いて。4枚がエース、1枚だけジョーカーが入っているわ」

律「そのジョーカーを引いた奴が、奴隷ってことだな!」

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 カードを引いて、その絵柄を見る皆は、少しずつ反応が違います。
りっちゃん、何か笑ってる?

さわ子「皆カードは見たわね? 鈴木さん、皆のカードを回収して。
     それで、王様役の唯ちゃんは、誰がジョーカーを引いたのか、つまり誰が奴隷なのか当てるの。
     これを、唯ちゃん以外の全員にもやってもらって、奴隷を当てることができなかったら脱落、
     最後に残った1人が勝者になるの」

梓「……どうやって奴隷かどうか当てるんですか?
   いくらなんでも、今誰が奴隷かなんて、本人にしか分かりませんよ」

さわ子「そう、そこがこのゲームで一番重要なところよ。
     唯ちゃん、誰でもいいから3人を指名して」

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唯「えっと……あずにゃんとムギちゃんと……それからりっちゃん!」

梓「私……」

紬「まあ」

律「私かよ!」

 なんとなく、カードを見ているときの反応が気になった3人を選びました。

さわ子「指名された3人は、自分が平民か奴隷か、王様に伝えなくてはならないわ」

梓「言っちゃっていいんですか?」

澪「でもそれじゃあ……」

さわ子「そう、ゲームにならないわね。
     王様の命令は絶対だけど、平民や奴隷だって対抗手段を持っている。
     指名されても、必ずしも自分の身分を明かさなくていい……つまり嘘をついていいの。
     ただし、さっき言ったみたいに、このゲームは6人が王様を順番にやっていくゲーム。
     嘘をつけるのは、この一巡の間に、一度だけよ」

純「誰がどのカードだったのか、私からしたら分かるから、二回以上嘘をついたら分かるってことですね」

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梓「なるほど……。……唯先輩、私は平民です」

紬「私も平民よ」

律「……」

唯「……りっちゃんは?」

律「……え? あ……わ、私も平民だっ」

 声が上ずってます、りっちゃん隊長。

さわ子「じゃあ唯ちゃん、5人のうち誰が奴隷か当ててみて」

唯「じゃあ……りっちゃん!」

さわ子「鈴木さん、結果発表をお願い」

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純「えっと……田井中先輩……平民。
   唯先輩のコールは失敗です。……こんなかんじですか?」

唯「え……」

 りっちゃんが平民……?

律「……ふ」

唯「……?」

律「唯……」

唯「何?」

律「唯ってほんとに……バカだよねえええええええええええええ」

唯「えええ!? ひどいよりっちゃん!」

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律「あっはっはっは……悪い悪い、一回言ってみたかったんだよ、これ」

澪「さっき律がやったのは演技なのか……? じゃあ誰が……」

紬「誰なの!? 誰なの!?」

梓「……すいません、私、嘘付きました」

唯「ええええ!? そんな、あずにゃんだけは私の味方だと思ってたのに!」

梓「だ、だからいちいち抱きつかないでください!
   だいたい唯先輩は正直すぎるんです、律先輩の芝居はちょっと上手かったですけど、
   もう少し疑わないと、本番で負けちゃいますよ!」

 確かにりっちゃんはちょっと演技っぽいところがあったような気がするけど、
あずにゃんの方はぜんぜん分からなかったよ……。

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さわ子「じゃあ、ルールをまとめるわよ。質問があったら言ってね」

『王様と奴隷ゲーム』

・王様となったプレイヤーが、5人の平民の中に潜む、1人の奴隷を探すゲーム

・王様は全員の交代制
・奴隷は、5人の平民がトランプを引き、1枚あるジョーカーを引いたプレイヤー

・王様は、平民のうち3人を指名する
・指名されたプレイヤーは、自分が平民か奴隷かを答える
・プレイヤーは、王様役が一巡するまでの間一度だけ、自分の身分を偽ることができる

・奴隷を当てることができなかったプレイヤーはその時点で失格。二巡目以降王様にならない
・最終的に残ったプレイヤーが勝者。50万円を得る
・ただし、同じ巡の中で全員が奴隷を当てられなかった場合、失格したプレイヤー含め全員復活できる

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さわ子「わかったかしら?
     あと、今はリハーサルだから何もしなかったけど、
     指名されること以外で自分の身分をアピールされたら困るから、
     本番では王様は後ろを向いて指名してもらうわ。
     さて、今日はもう遅いから、本番は明日の放課後ね」

唯「は〜い」

澪「……まったく、結局やることに……」

律「自分で言ったじゃねーかよ」

梓「……うう」

紬「楽しみだわ!」

憂「……」

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-唯-(唯の家)

唯「う〜〜〜〜〜」

憂「食べてすぐゴロゴロするのはよくないよ」

唯「う〜〜い〜〜〜」

憂「もう、お姉ちゃん!」

唯「だってぇ〜〜〜」

 どうしたらいいのか分からない……。
 あずにゃんの言うとおりかなぁ、私は正直すぎるって……だからりっちゃんに騙されて……。
私は頭悪いからなぁ……澪ちゃんみたいに頭がよければ……。

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-憂-

 お姉ちゃんゴロゴロしててかわいいなあ……。
 ……ゲームに……勝たせてあげたいよ。……だから私も参加したんだけど……。

憂「お姉ちゃん、ゲームに勝ちたい?」

唯「ん〜〜〜〜、そりゃあ、やるからには勝ちたいよ。憂は〜〜?」

憂「どうかなあ」

 軽音部の人のことは、よく知っているつもりだけど……
私の知っていること……それを信じて動くしかないよね……。

憂「頑張ろうね、お姉ちゃん!」

唯「うん!」

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-律-(律の家)

律「くくくくく……!」

 うははは、やばい、これはやばい!

律「勝てる、これは勝てるっ……! うやっほうう!!」

 ツインペダル、新しいスネア! 欲しいものが買える!

聡「うるさい姉ちゃん!」

律「おう聡、お前欲しいものないかぁ!?」

聡「は? 何言ってんだよ」

律「たまには姉としての威厳を見せようとしてるんだよ!」

聡「わ、わけわかんねぇ、姉ちゃんきもっ!」

律「うっはっは」

 待ってろよ、私の賞金っ!!

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-梓-(梓の家)

梓「……」

 やることは決まった……これだけじゃまだ、100%勝てるとはいえないけど……。

梓「でもなあ……」

 やっぱり決まってない……どうしよう……。

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-紬-(琴吹邸)

紬「うふ……うふふふふ……」

 楽しい、なんだかとっても楽しい!
 すごい緊張感があったけど、皆とあんな空気になるの始めてだな。
ライブとは違う緊張感……どうなるんだろうなあ、明日。早くならないかな。

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-澪-(澪の家)

 皆がやってきそうなこと……梓はたぶん……。
律もそうかもしれないな……そこに私が入るのは……難しいかもしれない。
 律の性格を考えると、こういうときは私をからかってくるに違いない……。
 ムギはたぶん、楽しむだけなんだろうなあ……分からないけど……。

澪「あとは……」

 唯と憂ちゃん……いや、憂ちゃんか。
 憂ちゃんはかなりきれるはずだし……もしかしたら……。

澪「唯と入れ替わったりして……」

 いやいや……入れ替わって何ができる……。
 それに、さわ子先生なら見破れるわけだし……。

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 注意を払うべきは、やっぱり憂ちゃんか。
 唯と、もしかしたら梓も組むかもしれないから、2人の動きもよく見ておかないと……。

澪「ん〜〜」

 50万円か……まさか、軽音部の中でこんな騙し合いみたいなゲームをすることになるとは……。

澪「ふわあ……」

 いつのまにか、いい時間になってたな……こんな夜遅くまで考えてるなんて……。

澪「……」

 騙し合い……夜……。

澪「ライアー☆ナイト……」

 君が言ったことば それは嘘だよね?
 夜になると 君は嘘つきになるから……

澪「新曲できそう……」

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-律-(翌日・音楽室)
 
律「よっし、やるぞーー!!」

紬「やるぞーー!」

さわ子「鈴木さん、よろしくね」

純「それでは、ゲームを始めます。
   まず、一巡目の王様の順番を決めます。プレイヤーの皆様はクジを引いてください」

梓「うわ、純、すごく板についてる……黒スーツなんか着ちゃって……」

さわ子「特訓したのよ!」

澪「と、特訓……恐ろしい……」

唯「っていうかさわちゃん、ディーラーがやりたかったんじゃないの?」

さわ子「飽きました!」

律「早すぎんだろ!」

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律「よーし、私が一番に引くぞー!」

唯「あー、りっちゃんずるいよ!」

律「早いもの勝ちだぁ!」

 そして賞金も私の物だぁ!

澪「全く、お前ら……」

紬「うふふ」

憂「何番目かなあ……」

梓「緊張する……」

 さて、どうなったかなぁ!? 早く順番発表してくれよ佐々木さん! あれ? 佐藤だっけ?

純「順番が決まりました。一巡目の王様の順番は、
   1、唯先輩 2、紬先輩 3、律先輩 4、憂 5、澪先輩 6、梓
   となりました。ゲーム開始は10分後となります」

 よっし、開始までに時間があるな。

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律「ムギ!」

紬「! なあに、りっちゃん」

律「私と組もうぜ!」

紬「組む?」

律「そうだ。組んで、王様のときにお互いを指名するんだ。
   そのとき、嘘をつかなければいい。これで、奴隷を探す絶対の手掛かりが手に入る!
   そして50万円は山分けだ!!」

紬「……! まあ、すごいわりっちゃん!」

律「そうだろうそうだろう!」

 よし、ムギは仲間になった!
 後は、最低でも1人は欲しい……けど……。

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梓「唯先輩、憂!」

唯「なぁに、あずにゃん」

梓「私達で組みませんか?」

 あ……やっべー、あっちで3人で組まれる……!

憂「……ごめんね梓ちゃん、私はお姉ちゃんと組むから」

唯「……憂、私はb」
梓「3人で組んだほうがいいよ!」

憂「梓ちゃん、昨日お姉ちゃんに嘘をついたよね?
   今日もそれをしないって保障、ある?」

梓「あれはリハーサルだったから、嘘を付いたほうがいいと思っただけで……」

憂「ごめんね、やっぱり組めないよ」

 おや、これは意外な展開だ。

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律「あーずさ。ふられちったな」

梓「に、にやにやするのはやめてください!」

律「いいのかな〜、そんなこといって。梓、私達と組みたくないのか?」

梓「え……いいんですか?」

律「あたぼうよ! さあ、私に続け、夕日に向かって走るぞー!」

紬「斎藤、今すぐ夕日を出して!」

梓「ツッコミませんよ? ……でも、組むことはおねがいします」

 よし、これで最低限の人数は揃った……!

律「ん……?」

澪「……」

律「澪しゃ〜ん、入りたいなら素直に言えばいいんでちゅよ〜」

澪「だ、誰が入るか!」

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-澪-

 あ、しまっ……!

澪「私は律に頼らなくても1人でやっていけるから!」

律「あー、そうですかー。よしムギ、梓、作戦会議だー」

紬「あいあいさー」

梓「あ、あぃぁぃぁ……」

 何であんなこと言っちゃうんだ私はあああ!?
 ついいつもの調子で返してしまった……私だけ完全に孤立した……。

 昨日考えたとおりだ……唯と憂ちゃんが一緒、律とムギが一緒……
梓が唯達のところに入らなければ私と……とも思ってたけど……。

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 このゲーム、組めば組むほど有利になるけど、その分1人当たりの賞金が減る……
だから、3人で組むのがたぶん、ちょうどいい。

 3人のうち、誰か1人が王様になっている場合……律達のグループで考えると、
律が王様になっている場合は、ムギと梓が平民側にいる。

 まず律は、指名できる3人のうち2人で、ムギと梓を指名する。
このとき、この2人のどちらかが奴隷だった場合、2人は嘘をつかないのだから奴隷を当てられる。

 もしいなかった場合問題となるのは、3人目に誰を指名するかだ。
 とはいえ、残りのメンバーは私、唯、憂ちゃん……どう考えても嘘を付かなそうな唯を指名するだろう。
そして、もし唯が奴隷ならば、やはり律は奴隷を当てることになる。

 最も悪いパターンは、その3人の中に奴隷がいない場合だ。
残り2人のうちから運頼みで当てなくてはならない。

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 でも……もしグループを組んでいない場合、平民側が嘘をつくことも考慮すると、
そこから奴隷を当てるなんて確率は、相当低いはず。
 その点、3人グループの作戦ならば、最低でも50%で奴隷を当てることができる……。

 この作戦、嘘をつかないであろう、唯かムギあたりがグループに属していないときならば、
3人で組もうが4人で組もうが、リスクはあるにせよ奴隷を当てることができる確率は変わらない……。

 逆にそれより多く……実質5人しかありえないけど……王様が指名できるのは3人なのだから、
平民側に4人仲間がいたって意味がない……。

 つまり、3人がベスト……。

澪「……」

 ここまで分かってるのに……私はグループに入れなかった……悲しい……。

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澪「どうしよう……」

純「それでは、ゲームを始めます。まずは、唯先輩が王様となります。
   他のプレイヤーの方々は、トランプを1枚お引きください」

 最初の王様は唯か……。唯と憂ちゃん……ここはまだ2人だけど、
憂ちゃんのあの様子……たぶん私は入れてくれない……。

 何で2人なんだろう……何か考えがあるのかな……?

澪「……」

 もう……どうにでもなれだ!

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-律-(王様:唯)

純「皆様の身分が決定いたしました。カードを回収いたします。
   唯先輩は、3人を指名してください」

律「当てられるもんなら当ててみろい!」

梓「……」

 とりあえず私は奴隷じゃなかった……。

 何か、梓の様子がおかしい気がするけど、もしかして梓が奴隷か?
だとしたらまずいな、唯はなんとなく梓を指名する気がする……。
 そうなったら、梓は嘘を付くことはできず、自分の身分を明かすしかない。

 このあとにまだ澪がいる……孤立したとはいえ澪は危険だ、嘘をつくならそこしかない。

紬「誰かなー」

唯「いきます!」

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唯「あずにゃん、ムギちゃん、りっちゃん!」

律「リハーサルのときと同じメンバーじゃねーか!」

 やっぱりかー……っていうか何も考えてないな唯のやつ……。

律「私は平民だ。奴隷じゃない」

紬「私も平民よ」

梓「私は……奴隷です……」

澪「……梓……!」

 梓……いや、ここは仕方ない……。
 一巡目はとりあえず、要注意の澪、そして、あわよくば憂ちゃんを落とせればいい。
 そうすれば、二巡目か三巡目には勝負を決められるはずだ。

純「それでは、王様である唯先輩は、コールをおねがいいたします」

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唯「う〜〜ん、昨日あずにゃんに嘘つかれたしなぁ……。
   もしかしたら、今日も嘘を付いたのかも……憂も言ってたし……」

 お? お? 唯、お前は現状ノーマークだが、脱落するならそれに越したことn
唯「でもやっぱりあずにゃんかな!」

 ってなんだそりゃあ!!

純「唯先輩のコールが出ました。
   ……梓は奴隷。王様である唯先輩のコールは成功しました。
   唯先輩は一巡目を通過となります」

 ……ここはしょうがなかった……大事なのは次からだ!
 私達のグループの戦いっ……まずはムギからだなっ……!

純「次の王様は琴吹様となります。10分後に開始となります」

律「ムギ、頑張れよ!」

紬「ええ、奴隷全員見つけてやるわ!」

梓「奴隷は1人しかいないんですけど……」

 ……あれ、大丈夫か……?

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-澪-(10分後・王様:紬)
 
純「それでは、紬先輩が王様で次のゲームを開始します。
   紬先輩は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 さっきのゲーム……梓は嘘を付かなかった……いや、付けなかったんだ……。
私や憂ちゃんのところで嘘を付くために……。

 私はそれを逆手に取るしかないのか……例えば梓を指名して、自分は平民だと言ったら、
奴隷色濃厚……。いや、それはあまりにリスクが大きい……けど……。

澪「……!」

 うわ、私が奴隷か……。
 いや、でも、私が指名されることはないんだ、私が奴隷ってことは、
律達のグループにとっては悪い展開ということ……。

純「カードを回収いたします。
   ……紬先輩、指名をおねがいいたします」

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紬「……そうね……」

 ムギが、私か憂ちゃんかの二択で間違えればラッキー……それでも私の勝機は薄いのだけれど……。

紬「えっと……りっちゃんに梓ちゃん、それから……澪ちゃん!」

 ムギは運がよさそうだからな……二択くらいは普通に当ててきそう……って、あれ?

澪「……私?」

 なぜ私なんだ……律に梓、そして唯じゃないのか!?

律「ムギ!」

 律が驚いている……ということは、これはグループ内の作戦じゃなく、
ムギの独断ということか……。これはどういうことだ……!?

純「指名された方は、自分の身分を答えてください」

 どうする……!?

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-紬-

 ごめんなさいりっちゃん、本当は唯ちゃんを選ぶはずだったのに……。

梓「私は平民です、すいません」

 確かに唯ちゃんは正直でいい子だと思う……けど、時として恐いくらいの才能を発揮する。
昨日のリハーサルの段階ではまだ開花していなかったと思うけど、
さっきの梓ちゃんを選んだ時……あれで何か変わったかもしれない。

律「ったく……平民だ」

 そう考えると、唯ちゃんは危険……下手に選ぶわけにはいかない。何をするか分からない……。

澪「私は……」

 だったら、真面目な澪ちゃんを選ぶべき。そのほうが行動を読みやすいから……!

 ここで澪ちゃんが奴隷だとしても、嘘を付くでしょう。
そうなると私は、澪ちゃんを奴隷といって、選ぶことはできない……。

澪「私は平民だ」

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紬「……」

 やっぱり、そうなるわよね。もっとも、本当に平民だったのかもしれないけど……。

純「王様である紬先輩は、コールをおねがいいたします」

 だけど、この行動には意味がある……。

紬「じゃあ、唯ちゃんで!」

律「そこで唯を選ぶのかよっ!」

 ……澪ちゃんは驚いているでしょうね、たぶん澪ちゃんも、
私が唯ちゃんを選ぶと予想していたのだろうから。

 あと、するべきことは……。

純「紬先輩のコールが出ました。
   ……唯先輩、平民。王様である紬先輩のコールは失敗しました。
   紬先輩は脱落となります」

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-澪-

純「次の王様は律先輩となります。10分後に開始となります」

律「ムギ! なんだって澪を選んだんだよ!」

紬「ごめんなさい……」

 結局嘘をついてしまった……これでよかったのか?
動揺してしまった……自分の予想と違うことが起こって……。

紬「でもねりっちゃん、これでいいのよ」

梓「どういうことですか……?」

紬「このまま私達は、必ず澪ちゃんを指名すればいいの!」

 ……! どういう……ことだ……?

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紬「梓ちゃんもりっちゃんも、指名するのは、このグループ内の2人と、
   最後は澪ちゃんにして。唯ちゃんを指名するよりいいはずだから」

律「説明になってねーよ」

梓「そうですよ!」

紬「おねがい」

 私を指名する……。もし私が次に奴隷になり、指名されたら嘘はつけない……。
だから、確かに私を指定すれば、私が奴隷の場合は言い当てることができる。

 だけどそれは、さっき私が奴隷であり、嘘を付いたと分かっていないとできないこと……。

 今ムギが、私を奴隷だと言わなかったということは、それは分かっていないことになる。
仮に私に、そう思わせるためにやったのだとしても、意味がないことだ。

 結局私が、一度しかできない嘘をついてしまったという事実は変わらないからだ。

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 じゃあ、それが目的じゃないとしたら……?
 例えば、私が今、奴隷ではなく、嘘を付いていないとしたら……。

 この後の王様は律……そこで私が奴隷になったとしても、嘘は付かない。奴隷だと言う。

 私が警戒すべきは憂ちゃんだ……脱落させるならば、憂ちゃん……そっちで嘘を付くべきだ。

澪「あ……」

 そうか、いくら唯が正直だからとはいえ、気まぐれで嘘を付く可能性だってある。
唯なら、誰を脱落させようなんて、考えずにそれをやってしまうだろう。

 簡単なことだ……それに気付いていなかった……!

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 そして、私はどうだ……?

 私は警戒すべき対象敵を考えている……つまり、私が嘘を付く相手は、簡単に絞ることができる……。
よって私を指名する、しかもずっと指名すると言われれば、私は簡単に嘘を付くことなどできない……。

 これがムギの狙い……!
 唯よりも確実に、真実を引き出されてしまう……!

 いや、それに待て……確かに最も警戒すべき相手は憂ちゃんだった……
とはいえ、梓だって十分に警戒するに値する存在……。

 憂ちゃんが王様のとき、私が奴隷になった場合……私が指名されても……
梓を警戒して嘘を付くことができないかもしれない……。

 さっきの律達の会話、この音楽室内で憂ちゃんに届いていないはずがない……。

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澪「ん?」

 そういえば唯……。
 さっき王様だったとき、なぜ憂ちゃんを指名しなかった……?
結果的に指名する意味はなかったが、組んでいる相手を指名しないなんて……。

純「それでは、律先輩が王様で次のゲームを開始します。
   律先輩は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

澪「あ……」

 もう10分……時間が足りない……。

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-紬-(王様:律)

 今回も平民ね……。

 さて、気付いたかしら、澪ちゃん。なぜ私が澪ちゃんを指名したのか……。
もう澪ちゃんは動けない……もともと孤立してしまった澪ちゃんが勝てる見込みは薄かったけど、
その焦り……それをさらに利用させてもらっちゃった、ごめんね。

純「カードを回収いたします。
   ……律先輩、指名をおねがいいたします」

 もしさっき澪ちゃんが奴隷で、嘘を付いていたのなら……この作戦で最も良い展開。
 そうでなくても、澪ちゃんが嘘を付くとしたら、梓ちゃんが王様のときのみ……。

 どちらにしても、もう澪ちゃんは奴隷になることは許されない……澪ちゃんにとってはね。

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-律-

律「ムギ! 梓! 澪!!」

 しょうがない、ムギの作戦にのってやる!
 全然説明してくれないから何も分からないけど、ムギなら何か考えがあるんだろ!

 もう、知らねえ!

紬「私は平民よ、ごめんねりっちゃん」

梓「私もです……」

 くそ……あとは澪か……頼むっ……!

澪「……」

律「澪はどうなんだ!?」

澪「あ……」

 早く言えよ、心臓が32ビートを刻んでるんだって!

-----

澪「……ぃ……」

律「聞こえん!」

澪「奴隷だ、くそう!」

 うおお、なんだその言い方!
 そこまで叫ばれると、疑う余地がないな……さっきのムギのは、精神攻撃だったのか?

純「王様である律先輩は、コーr」
律「澪、お前だぁ!」

純「……律先輩のコールが出ました。
   ……澪先輩、奴隷。王様である律先輩のコールは成功しました。
   律先輩は一巡目を通過となります」

律「ぃぃぃいいよっしゃーー!!」

 これで賞金に一歩近づいたぜ!

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-唯-(10分後・王様:憂)

唯「う〜ん」

 さっきのムギちゃんの言ったことって、澪ちゃんを動揺させるための作戦だったんだよね?

純「それでは、憂が王様で次のゲームを開始します。
   憂は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 それで澪ちゃんはあんな態度をとっている……でもそれって、
りっちゃんに対しては必要だったのかな?

 ううん、りっちゃんだけじゃなく、私が王様だった場合も、
ムギちゃんの作戦は意味がないことだよね?

 だって私だもん。

梓「唯先輩、あとは唯先輩だけですよ」

唯「ああ、ごめんよ〜」

 ……平民、っと。

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-澪-

 まずい……また奴隷を引いた……現状、私が最も引いてはいけなかったのに……!

純「カードを回収いたします。
   ……憂、指名をおねがいいたします」

 さっきはいろいろ考えたが、結局私は、すでに嘘を付いている。
どう足掻こうとそれは動かない……指名されたら終わり、王様を通過させてしまう。

憂「じゃあ、お姉ちゃん、紬さん、澪さんでおねがいします」

澪「う……」

 やっぱり選ばれた……これで憂ちゃんは通過決定……。

 しかもここで最悪なのは、憂ちゃんに対して嘘をつかない時点で、
私はすでに、嘘をついているとバレる可能性が高いということ……。

 梓がまだ残っているとはいえ……いや、結局私が指名されるという事実は動かないのか……。

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唯「私は平民です!」

紬「私もよ〜」

澪「……奴隷だ」

 そしてさらに悪いことに、唯一の対抗手段である、私が王様のときに奴隷を言い当て、
二巡目にも参加すること……その可能性が薄い……。

純「王様である様は、コールをおねがいいたします」

憂「澪さん、澪さんが奴隷です」

純「……憂のコールが出ました。
   ……澪先輩、奴隷。王様である憂のコールは成功しました。
   憂は一巡目を通過となります」

 やっぱりダメだ……完全に利用されるだけの存在……。
 1人ってこんなに寂しいんだなあ……。

 せめて、ここからでも仲間を作ることができれば……。

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-梓-(10分後・王様:澪)

純「それでは、澪先輩が王様で次のゲームを開始します。
   澪先輩は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 ここまでは順調……!

梓「カードは……」

 ……奴隷……!

 よし、このタイミングでこれを引くのはさらにいい。
 私はまだ嘘をついていないから、指名されても、平民だと言ってしまえばいいんだから。

 次の私の王様で、一巡目は終了するから、ここで嘘を付こうと付かなかろうと、
どちらでも私にとって問題にはならないし。

 すいません澪先輩。
 ムギ先輩の作戦にすぐ気付いたり、たぶんまだ何か作戦を考えていたりと、
澪先輩はやっぱり、敵にまわすのは恐いんです。

 ここで終わりにさせていただきます!

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純「カードを回収いたします。
   ……澪先輩、指名をおねがいいたします」

澪「……唯、ムギ……あとは……梓で」

 きましたね澪先輩……ここで私を指名する勘のよさ……やっぱり、
グループを組んでおいてよかったです。

唯「平民だよ!」

紬「ぜんぜん奴隷をひけなくて困るわ、私も嘘をつきたいのに……」

 ムギ先輩、あんな作戦を実行しておいて……仲間でよかったです。

梓「私も平民です」

 そういえば、リハーサルも含めて、奴隷を引いたのって私と澪先輩だけだ……。
やっぱりいじられ役はこういうのを引く運命なのかな……。

梓「!?」

 って何考えてるの私! いじられ役なんかじゃないもん!!

-----

純「王様である澪先輩は、コールをおねがいいたします」

澪「ムギで……」

純「……澪先輩のコールが出ました。
   ……紬先輩、平民。王様である澪先輩のコールは失敗しました。
   澪先輩は脱落となります」

 ……ここでムギ先輩を選んできますか……私じゃなくて本当によかった。
嘘をつかれたことに賭けてくる大胆さ……危なかったです。

純「次が一巡目最後となります。10分後に始めさせていただきます」

 よし……最後は私だ……!

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-律-(10分後・王様:梓)

純「それでは、梓が王様で次のゲームを開始します。
   梓は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 最後は梓か……。

 今私達のグループは、私が残り、ムギが脱落している。
 梓が言ってた、北位置(期待値)? ……って何か分からないけど、それからすると、
2人は通過できてもおかしくないらしい。

律「これを引くぜぃ」

 また平民か……ここで引けてれば梓を通過させてやれてんだが。

 にしても、もしかしてまた澪が奴隷を引いたんじゃないだろうな?
……いじられ役の特権ですね、澪しゃんっ。

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純「カードを回収いたします。
   ……梓、指名をおねがいいたします」

梓「ムギ先輩、律先輩、澪先輩でおねがいします」

 指名されるメンバーはそうなるよな……私が指名されても何もしてやれないが……。

律「すまん、平民だ」

紬「また引けなかった……」

 あと残るは澪だけ……。
 さっきムギが言ってた……憂ちゃんが王様のときに嘘を付かなかった時点で、
それより前の段階で、澪は嘘を付いているだろうと……。

 恐らく、ムギが王様のとき。

梓「澪先輩……」

 澪……どっちだ……!

-----

澪「……平民だ」

 ……平民……澪が平民っ……!

純「王様である中野様は、コールをおねがいいたします」

 くそ……澪じゃなかったか……。

 ……いや、本当にそうなのか?
 もしかしたら、今、嘘を付いたのかもしれない。
憂ちゃんのときに奴隷だと白状したのは、私達が、澪はすでに嘘を付いた後、そう思わせるため……。

 憂ちゃんは警戒していたけど、実際問題、3人グループの私達の方が厄介だと踏んだ可能性もっ……!

梓「えっと……」

 どうする……梓っ……!

-----

梓「……唯先輩……で……」

 ……!
 澪ではなく唯にした……つまり、ムギの考えは正しくて、残り2人のどちらかが、
奴隷だと考えた……!

純「……梓のコールが出ました」

 頼む、唯、奴隷であってくれ!

純「……唯先輩、平民。王様である梓のコールは失敗しました。
   梓は脱落となります」

 あ、ああ……!

憂「ごめんね梓ちゃん。私が奴隷でした」

 く、くそ……! ムギの考えは正しかったのに、この半々の確率で……!
ふざけんなよ神様、もうお願いなんてしてやらねえからな!

澪「ん……?」

-----

-一巡目終了・結果-

純「一巡目が終了いたしました。
   結果は、このようになります」

通過者:唯・律・憂
脱落者:紬・澪・梓

純「二巡目は30分後に開始しますが、その前に、王様の順番を決めておきますので、
   クジを引いてください」

唯「これ! 今度は一番いただき!」

律「ああ、くそ、唯め!」

憂「残りもの〜っと」

純「順番が決まりました。
   1、律先輩 2、憂 3、唯先輩
   となりました。それでは、30分後に」

-----

-さわ子-(休憩時間)

澪「梓、ちょっといいか?」

梓「え……えっと……」

律「おやおや澪ちゃ〜ん、今更仲間に入りたいっていうのかな〜?」

澪「そんなんじゃない! 梓、5分でいいから」

唯「憂、あのさ、話があるんだけど〜」

憂「なあに、お姉ちゃん?」

紬「あ、あれ? えっと……、り、りっちゃん! お話しましょう!」

 ふふふ……みんな必死に勝とうと動いている……面白いわね。

 まだ誰もあきらめていないみたい……もちろん、そのためのルール、
”全員奴隷を当てられなければ仕切り直し”があるんだけど……。

-----

さわ子「鈴木さんは、誰が勝つと思う?」

純「え? ……私は澪先輩に勝って欲しかったので……」

さわ子「そう……でもまだ、澪ちゃんはあきらめてないわ」

純「そうみたいですね。先生はどうなんですか?」

さわ子「そうね、私は……負けた子にどんな罰ゲームをさせるのか、
     考えるので精一杯ね!」

純「……」

さわ子「今、ゲームに参加しなくてよかった〜、と思ったでしょ?」

純「!? そ、そんなこと思ってないです!」

さわ子「鈴木さんの罰ゲームだったら、イメチェンするために縮毛矯正だったのに」

純「!!」

さわ子「……今、ゲームに参加すればよかった〜、と思ったでしょ?」

純「思いました!」

-----

-律-(30分後・二巡目開始・王様:律)

純「それでは、二巡目を開始いたします。
   最初の王様は律先輩です。
   律先輩は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 ムギと話してたらあっという間だったな、30分なんて。

 それにしても、ムギは私以上にゲームのこと考えてた……
最初にこれみよがしにグループを組むことを提案したけど、
ムギも考えてたみたいだし、他の皆も考えてたかもしれないな。

 ちょっと恥ずかしい。

梓「奴隷、来て!」

紬「これに決めた!」

 2人が奴隷を引ければ、私の……私達グループの勝利は、ほぼ間違いない。
これは二巡目なんだ……皆、奴隷を引いても絶対に嘘を付いてくるはず。

-----

 一巡目は澪、梓、憂ちゃんあたりを警戒するだろうから、
皆、下手なタイミングで嘘を付くことができなかった。

 でもこの二巡目、その3人の中で残っているのは憂ちゃんだけ。
そして、全体の人数も少なくなる……ゲームの回数が少なくなるから、
自分が奴隷になる確率も低くなって、嘘を付きやすくなる。

律「……!」

 あ、あれ……?
 やべ、なんかすげー緊張してきた。

 ムギか梓が奴隷になれば私達の勝ち……でもそうじゃなかったら……。
 さっきはムギのおかげで澪を利用することができた。
だけど今は、それはもうできない。

 脱落した皆は、必ず通過した私達全員を脱落させようとするはずだから。

-----

純「カードを回収いたします。
   ……律先輩、指名をおねがいいたします」

律「ムギ、梓! あとは……」

 誰にすればいいんだ?
 やっぱり唯か?

 だけど、ムギは最初の方からそれは危険だと思っていたらしいし、
さっきの休憩時間、唯と憂ちゃんは何か話していた。

 憂ちゃんが何かアドバイスした可能性が高い。

 くそ……誰がいい……!

律「あとは、澪!」

 もう、最初と同じでいいやっ。

-----

純「指名されたプレイヤーは、自分の身分を宣言してください」

 どうだ……どうなんだっ……!?
 奴隷になれたのか、ムギ、梓っ……!

紬「りっちゃん!」

律「!」

紬「私、なったわ、奴隷になったわ!」

律「!!」

 ま……マジか! 来たのか、ムギ!!
 さっきの私の悩み、意味無っ!

律「じゃあもう決めた、ムギ、お前が奴隷だ!」

-----

純「他のプレイヤーの宣言はよろしいのですか?」

律「ったりめえだ、さっさと結果発表してくれっー!」

 ここ一番で決められたっ……勝った、これで勝った……!

紬「うふふ」

澪「……」

純「……律先輩のコールが出ました」

梓「……」

純「……紬先輩……」

憂「……」

唯「……」

純「平民」

-----

純「王様である律先輩のコールは失敗しました。
   律先輩は脱落となります」

律「ぃよっし、ナイスでムギ! これで私達の勝ちは確実だ!
   梓、やったぞ、私は脱落、二巡目を脱落し……た……?」

 ……は……?

律「え、ちょ、佐藤さん、何言ってんだよ、ムギは奴隷だろ?
   私は通過したんだろ!?」

純「佐藤というのが私のことならば、私は間違っておりません。
   紬先輩は間違いなく、平民です」

律「そ、そんなバカな、だってさっきムギが自分は奴隷だって言ったんだぜ!?」

純「いえ、紬先輩は平民です」

 え……え……? え……??
 どういう……ことだ……!?

紬「……うふふ」

律「……!」

-----

-梓-

律「む……ムギ……?」

紬「……ごめんなさいりっちゃん、私……嘘ついちゃった」

律「な……!」

梓「……!」

 ムギ先輩……!

律「な、何でだよ、何でだよムギ!
   何で嘘を付く必要があるんだ!? 私達の勝利は目前だっただろぉ!?」

紬「私自身が、勝つためよ。皆が脱落すれば、復活できる。
   またチャンスが巡ってくる。
   一度くらい、嘘を付いてみたかったしね」

梓「……」

 それはいくつかの点でおかしいです、ムギ先輩。

-----

 まず、律先輩の言っているように、私達グループの勝利は目前だった。

 実際のところ、私も平民、ムギ先輩も平民だったから、運任せによるところはあったけど……
それでも、今このタイミングでグループの仲間が、”自分は奴隷だ”そう言えば、
その人を指定するに決まっている。

 ムギ先輩の勝利は、私達のグループの勝利に等しいのだから、
その行動は明らかにおかしいんです。

律「グループなんだから、そんなことしなくたっていいだろっ!」

紬「だからごめんなさいと言ったじゃない」

律「ぐっ……!」

 それと二つ目……ムギ先輩は、一巡目で自分から脱落しにいった感がある……。
それなのにいまさら、”自分が復活したいから”なんておかしいです。

-----

 そして、最後の一つ……。

律「でも……なんでだよっ……!」

唯「りっちゃん落ち着いて!」

憂「そうです、冷静になりましょう!」

紬「……これは嘘をついていいゲームなのよ、りっちゃん」

律「く……くそおおおおお!!」

 ムギ先輩はたぶん、今だけじゃなく、一巡目ですでに嘘をついている。
 それは……私が王様だったとき。あのとき奴隷だったのは、ムギ先輩……。

 ……もっとも、最後の一つは私の考えじゃない……。
 後は次ですね……澪先輩。

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-澪-(10分後・王様:憂)

純「それでは、憂が王様で次のゲームを開始します。
   憂は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

憂「……」

 私が引いたのは……平民。
 もしここで奴隷を引いていたら、この行動はとらなくてよかったかもしれない。

 ……いや、私が勝つためには、ここで憂ちゃんを通過させるわけにはいかない。

 普通にしていれば、憂ちゃんの勝ちはほぼないだろう……なぜなら、
奴隷を引いたら、誰だって嘘を付く。指名の意味はない。

 律達みたいにグループを組んでいたら指名は大きな意味を持つ……
いや、持っていた。すでにムギの裏切りによって、それもなくなったけど……。

 でもそれは、律、梓、ムギのグループに関しての話。

-----

純「カードを回収いたします。
   ……憂、指名をおねがいいたします」

憂「お姉ちゃん、紬さん、律さんでおねがいします」

 ……予想どおりのメンバー……。

 唯と憂ちゃん……この2人が互いに嘘を付くなんて、私には想像できない。
それは、グループを組んでいようがいなかろうが同じこと。

 律は、さっきのショックから冷静な判断ができない……
憂ちゃんはそれが分かっているから、律を選んだ……。

 そして……ムギ……。

 これまでの行動……それを照らし合わせれば、おのずと答えは出てくる……!

-----

純「指名されたプレイヤーは、自分の身分を宣言してください」
澪「ちょっと待った」

憂「……!」

澪「自分の身分を言う前に、私の話を聞いてくれ。憂ちゃんもこちらを向いて欲しい」

憂「……何でしょうか?」

澪「律、ムギ、梓。この3人はグループを組んでいた。
   これは、ゲーム開始前の時間に皆が見ていたことだ、皆知ってる」

紬「そうね。でも、どうしたの澪ちゃん?」

律「……」

澪「そのグループ以外に、もうひとつのグループが存在していた」

-----

紬「……それは唯ちゃんと憂ちゃんね。
   2人も、最初に組むという話をしていたはずよ。
   それに、2人は姉妹なんだから、組んでいて当然」

 確かにそれは私も見ていた……それがあったからこそ、今まで騙されていた……。

澪「それは違う。それはカモフラージュだったんだ。
   いや、それ”も”カモフラージュだった、というべきか」

律「どういうことだよ、澪」

澪「……本当に組んでいたのは、ムギ、そして憂ちゃんだったんだ」

憂「……!」

律「え?」

紬「……! どういうことか説明してほしいわ、澪ちゃん。
   私はりっちゃんと梓ちゃんとのグループなのよ。それはおかしいでしょう?」

-----

澪「まず私がおかしいと思ったのは、唯が王様のときだった。
   律達のグループを見ていれば分かるが、組んでいるのならば、
   王様のとき、グループ内全員は少なくとも指名するはずだ。

   だけど、唯は憂ちゃんを指名しなかった。
   だから、もしかしたら2人は別々に行動しているのかもしれない、そう思った」

紬「でもそれは、あくまで唯ちゃんと憂ちゃんが組んでいない、というだけの話。
   そこに私は関係ないわ」

澪「そう、その時点ではムギの関係性なんて考えもしなかった。
   だけど、疑惑が出てきたのは次の、ムギが王様のときだった」

紬「私が澪ちゃんにしかけた作戦のことかしら?
   あれは、りっちゃんに有利に動いてもらうために……」

-----

澪「本当にそうか? 確かに律は、結果的にその作戦のおかげで奴隷を当てられたようにみえる。
   でも、あのとき私が嘘をつけたとしても、律に対して嘘を付くことはなかった。
   なぜなら、憂ちゃんを警戒していたから。

   あの作戦の本当の狙い……それは私がさらにその後ろ、梓を、より警戒して、
   憂ちゃんが王様のときに私に嘘をつかせないという狙いがあったんだ」

紬「待って、それは話が飛躍しすぎているわ。
   私があの作戦の真意を話したのはグループ内……りっちゃんと梓ちゃんだけよ」

澪「もともとムギと憂ちゃん、2人で決めていた作戦だったとすれば、そんなことは関係ない。
   それに、梓が王様だったとき……そこに、より2人の繋がりを臭わせるものがあった」

紬「……」

-----

澪「梓が王様のとき……奴隷だったのはムギなんじゃないか?」

紬「澪ちゃん、忘れたの? あのとき憂ちゃんが、自分が奴隷だった、って言ってたのよ?」

澪「それが本当はどうか確認する術は私達にはない。
   だけど、あの憂ちゃんのことばがあったから、あのとき指名された3人……
   その中にいたムギが、組んでいた梓に対して嘘を付いた、そんなことは誰も考えなかった」

紬「それはそうかもしれないけど……」

澪「もっとも、今まで私が言ったことは、ムギと憂ちゃんの繋がり……
   その可能性を示唆するだけに過ぎない。証拠なんて何もない、私の想像だ」

紬「じゃあ……」

澪「でも決まったじゃないか、さっきの律が王様のときに」

-----

澪「さっきまで私が言ったこと、そして、組んでいた律に対する裏切り……
   これが揃ったことで、ムギと憂ちゃんが組んでいる証拠になった。
   簡単な話だ、3人で組むより2人で組んだほうが、1人分の分け前は大きくなるんだから」

紬「澪ちゃん……!」

憂「……もういいです」

澪「!」

憂「紬さん、もういいです。澪さん……澪さんが言ったことは、全て事実です」

紬「憂ちゃん……」

憂「私と紬さんは組んでいました。それはゲームが始まるよりもっと前……
   昨日の段階からです」

-----

-梓-

憂「昨日私は、紬さんに連絡を取りました。
   紬さん、梓ちゃん、律さんはグループを組む……そう私は考えていたからです。
   梓ちゃんは、私に声をかけてくる可能性……実際そうなりましたが、
   それを断れば、律さんが梓ちゃんに声をかける……そう思いました」

律「何で私がムギと組むと思ったんだよ……?」

憂「律さんは、澪さんのことを信用しています。
   でもその一方で、澪さんをからかいたいと、いつも思っているように、私は思います。
   だからこういうときは、澪さんと組まない。
   そうなると、最も可能性が高いのは紬さんでした」

律「……そのとーりだよ……」

 本当だった……本当に憂とムギ先輩は組んでいた……。

-----

-梓-(一巡目、二巡目の間の休憩時間)

梓「話ってなんですか……澪先輩」

澪「……メール送ったから見てくれ」

 ……メール……? ないしょの話ってこと……?

梓「……これって……!」

 澪先輩のメールの内容は、ムギ先輩の裏切りについて。
そして憂と組んでることについて。
 一巡目の結果を踏まえた澪先輩の推論……。

梓「こんなの信じろって……」

澪「……ああ、分かってる。だから、梓は律のグループと私、
   両方についてくれればいい。いや、今は私のことは無視してくれてかまわない」

 澪先輩が私の耳元に話しかける。

-----

梓「でも、だったら……」

 今話したのはなんで……。

澪「梓、私につくのは律の王様が終わった後だ」

梓「後……?」

澪「私の考えが正しければ、私の言った意味、見ていれば分かるはずだ」

梓「はあ……」

 どういうことなんだろう……?
 そもそも憂とムギ先輩がなんで……。

 見ているしかないのかな……。

-----

-梓-(時間軸戻る)

憂「私が裏で紬さんと組むことで、私と紬さんは、実質4人組になっているに等しい状況でした。
   それでいて、本来は2人でしか組んでいないのだから、1人の取り分は大きくなる」

 私達は憂を警戒するけど……たぶん、ムギ先輩がそうならないようにできる……。
そうなれば、結果的に私と律先輩も仲間になっていたも同然……。

 実際、ムギ先輩の機転で澪先輩を指名する作戦に突然変えたことで、
ムギ先輩の、こういうことに関する能力は高いことが分かっていた……。

 だから、ムギ先輩の作戦と言われれば、私達は乗ってしまっていたはず。

憂「でも意外でした、まさか気付かれていたなんて。
   さっきの律さんが王様のときに、ムギ先輩に疑いが向く可能性はあったけど、
   それよりも前から、しかも私と組んでいることにも……」

-----

澪「私だって必死だったんだよ、1人になっちゃったから。
   でもこれで……」
憂「梓ちゃん、それに律先輩を組めますね。
   今このタイミングで、私と紬さんの関係を暴露するということは、
   皆の敵意を私達に向けさせるためですね」

澪「……そのとおりだ」

 憂……やっぱりすごいよ。だけど澪先輩の方が上手だった……。
 
 だけど……。

憂「でも、私と紬さんは組んでいるんです。もしここで紬さんが奴隷を引いたら……」

 そう、それだ。
 結局、ここが全て……ここさえ乗り切れば……私達の勝ちが見えてくるんだ。

-----

澪「ごめん鈴木さん、続けてもらってもいいかな」

純「あ、はい。えっと……指名されたプレイヤーは、自分の身分を宣言してください。
   のところだったかな?」

梓「先生にテンプレートを刷り込まれてたんだね……」

 ってそんなことはどうでもいい……ムギ先輩が指名されてるんだ……!
あとは唯先輩と律先輩だっけ……。

 さっきは律先輩、すごく動揺していたけど……。

律「私は平民だ、残念だったな憂ちゃん!」

 もう大丈夫。さっきだったら、奴隷を引いたら奴隷だと言ってしまいそうだったもん。

唯「私も平民だよ〜」

 唯先輩も平民……あとはムギ先輩……最初に嘘を付いたムギ先輩……。
今から言うことは、絶対の真実……!

紬「私は……」

-----

 どっち……どっち……!?

紬「私は平民……ごめんなさい、憂ちゃん」

憂「いえ、謝らないでください」

 よし……!
 後は憂が誰を選ぶか……私は平民だし、澪先輩もたぶん違う……。
となると残るは、律先輩か唯先輩……!

憂「じゃあ……澪さんでおねがいします」

純「憂のコールが出ました。……澪先輩、平民。王様である憂のコールは失敗しました。
   憂は脱落となります」

 やった……これで後は唯先輩だけ……唯先輩ならたぶん大丈夫!
これで復活ですね、澪先輩!

-----

-律-(10分後・王様:唯)

純「それでは、唯先輩が王様で次のゲームを開始します。
   唯先輩は後ろを向き、他の方はカードを引いてください」

 ……ったく澪、やってくれるぜ。
 でも、おかげで助かった。

律「これ……っと」

 ……うわ、また奴隷が来ちまったか……。

 さっきの憂ちゃんが王様のとき、本当は私は奴隷を引いていた。
もし唯が私を指名したら……嘘を付くことはできない。

 唯はリハーサルと一巡目で、どちらも同じメンバーを選んでいる。
そして、そのメンバーに私は入っていた……またくるかもしれない。

-----

 いや、待て。

 さっきの私が王様のとき、奴隷ではないムギが、自分は奴隷である、と嘘を付いている。

つまり今、本当に奴隷である私が指名され、奴隷だと言っても、唯は信じないかもしれない。

 ……私を平民だと思うに違いない。

純「カードを回収いたします。
   ……唯先輩、指名をおねがいいたします」

唯「ん〜」

 早く言えよ!

唯「皆さ、ちょっと聞いていいかなぁ?」

律「……何だよ」

唯「えっとね、皆、最初からグループを組んで、このゲームをやってたんだよね?
   それって何で?」

-----

-梓-

梓「唯先輩、もしかしてさっきまでの会話、理解してなかったんですか?」

唯「いや、そうじゃないんだけど、何でかなって」

 唯先輩、ここにきてそんな質問……さすがにあきれますよ。

梓「グループを組むのは、指名をしたときに嘘をつかれないためです。
   そこで嘘をつかれたらおしまいですから」

唯「そうだね、あずにゃんはそうしないといけないよね。
   でもさ、一番率先してグループを作ってたのはりっちゃんだけど、
   りっちゃんは何で組んでたの?」

律「だから今梓が言っただろ〜、グループを組めば嘘をつかれないんだってば」

 こんなことを言うってことは、唯先輩と憂は組んでなかったんだ。

 ……何にしてもここは消化試合です唯先輩。唯先輩も脱落すれば皆復活するんです。

-----

唯「……でもりっちゃん、嘘は一回しかつけないんだよ?
   それなのに、一巡目から私やりっちゃんに対して嘘をつくかな?
   私だったら、澪ちゃんみたいに頭のいい子のときに嘘をつくよ。
   だから、特に私やりっちゃんは、グループを組む意味ってないと思うんだよ」

 ……!
 そいうことですか……確かにそれはそうだ……私達はたぶん皆、
一巡目で唯先輩のことは軽視していた。

 だけど、二巡目は違うんですよ、唯先輩。

梓「唯先輩、それは一巡目だけの話です。
   二巡目は残った人の数が少なくなるんですから、唯先輩にだって嘘を付きますよ」

唯「だよね、たぶん今私が指名した子は、奴隷だったら嘘を付くよね」

梓「それが分かってるいるなら、グループの意味は……」

-----

-澪-

唯「うん、グループの意味が出てくるのは二巡目からだと思うんだよ」

澪「……」

唯「今残ってるのって、私だけだよね? 
   ってことは、私が奴隷を当てられたら私の勝ちなんだよね?」

 ……!
 唯、お前まさか!

紬「そうね、でもそれは難しいわよ、唯ちゃん」

唯「じゃあさ、こういうのはどうかな? 今から私と組む人はいない?
   ……ううん違う、奴隷を引いた人は教えてくれないかな、そうしたら、賞金山分けだよ」

律「……!」

紬「な……」

梓「ゆ、唯先輩……!」

 ……やっぱりそれが目的か……!

-----

 その方法、私も考えていた……だけど、私は一巡目から通過が難しい以上、
最初からグループを組むことが不可欠だった……つまり、それはできなかった。

 でも唯ならそれが可能だった……!

 私は平民だ。だから、ここで唯と組むことはできないし……そもそもそんなことはできない。

唯「……」

 だけど、今奴隷を引いたやつ……どうするか……。

唯「誰もいないの?」

澪「……」

律「……」

梓「……」

-----

唯「……ふふ」

澪「……?」

唯「よかった!」

梓「……何がですか?」

唯「みんなグループを組んでるなら、それを裏切らなくてよかった、って!」

律「何言ってるんだよ唯」

唯「だってさ、みんなすごく真剣に騙しあいしてて、ちょっと怖かったから……。
   それでまた、私の誘いに乗ってきたらどうしよう、って思ってたんだ。
   だから、誰も裏切らなくてよかったって思うよ」

澪「……唯……」

 唯……そんなこと考えてたのか……。それなのに私は……。

-----

唯「だからね、私はここで、自分を信じて奴隷を誰か当ててみるよ。
   で、賞金はみんなで分けようね。
   最初から皆で分ければよかったんだよ〜。
   あっ、もちろん当てられるかは分かんないんだけどね〜」

梓「……まったく、唯先輩らしいですね」

紬「……ほんとうに」

澪「……だな」

律「……」

唯「あ、ごめんね純ちゃん、私まだ指名してなかったよね〜」

純「いえ……指名をおねがいします」

律「……唯」

唯「なぁに、りっちゃん?」

-----

律「私を指名しろい!」

唯「……え?」

律「私がバカだったよ、お金欲しさに真剣になりすぎてた!
   唯は唯だったんだな!」

唯「りっちゃん……」

澪「律……」

唯「じゃあ、あずにゃん、ムギちゃん、りっちゃん!」

梓「また同じメンバーじゃないですか……唯先輩らしいです」

唯「えへへ〜」

純「指名されたプレイヤーは、自分の身分を宣言してください」

梓「平民です」

紬「私もよ」

律「私は……奴隷だ!」

-----

唯「じゃありっちゃんで!」

純「唯先輩のコールが出ました。……律先輩、奴隷。王様である唯先輩のコールは成功しました。
   唯先輩の勝利となります」

唯「やった〜〜!」

憂「やったね、お姉ちゃん!」

澪「まったく、唯には負けたよ」

紬「うふふ」

梓「唯先輩……」

律「まったく、なんかバカみたいだなー、これだけやって、結局山分けかよ!
   あ、でも、せっかく唯が勝ったんだから、やっぱ唯の分をちょっと多くしないとな!」

-----

唯「……え、りっちゃん……」

澪「そうだよ唯、律の言うとおりだ」

唯「え、そんな……あははは!」

律「何笑ってんだよ唯! じゃあ唯は私らより100円多いってことで!
   あ、私は部長権限で10万円増しd」
澪「こら!」

律「いひゃいー!?」

唯「あははは、りっちゃん、あははは!」

律「わ、笑いすぎだー、唯ー!」

唯「あはは、あははははは!」

-----

律「もう、なんなんだよ、まったく!」

唯「だって、りっちゃんがあんまりにもおかしなこと言うからつい……あははは」

律「……どうしたんだよ、唯?」

梓「唯先輩?」

唯「あはは……」

澪「……?」

紬「唯ちゃん……?」

唯「……りっちゃん……」

律「な、何だよ……」

唯「りっちゃんて本当に、バカだよねええええええええええええええ」

-----

-憂-

律「え? な……?」

唯「本当に笑っちゃうよ。山分け? そんなわけないじゃん。
   勝ったのは私なんだから、賞金は私のものでしょう?」

梓「え、でも唯先輩、さっき……」

唯「みんな今まで散々嘘をついてたんだから、私がついたっていいよね?」

澪「な……ってことは……!」

唯「そうだよ、さっきのは演技。
   ああすれば、きっと誰かが、自分は奴隷だと言ってくれると思ったんだよ。
   ありがとうね、りっちゃん」

律「ゆ、唯……!」

 ……そう、これが私の作戦。
 ……ううん、お姉ちゃんと私の、本当の作戦……。

-----

-憂-(一巡目と二巡目の間の休憩時間)

憂「お姉ちゃん、話って何?」

唯「ん〜とね〜……他の皆も話してるから、私達が話してることは聞かれないよね……」

憂「?」

唯「憂、ちょっと聞いていいかな?」

憂「うん、何?」

唯「なんとなくなんだけど……憂ってムギちゃんと組んでる?」

憂「……え?」

唯「なんとなく思っただけなんだけど……」

 ……言ってしまっていいのだろうか……。

-----

憂「えっと……」

唯「ああ、答えにくいよね、ごめん憂。あ、でもこれは答えられるよね?
   憂って、私を勝たせようとしてるよね?」

憂「え……」

 そう、そのとおりだ……私はお姉ちゃんを勝たせることしか考えてない。

 紬さんと組んだのも、紬さんが自分から負けを選ぶようにしてもらうため……
結果的に私は残れたけど、それはどっちでもよかった。

 紬さんは、私に勝って欲しい……自分と組んだ私が勝てば、分け前が手に入るから……
そう思っていると思うけど、私は勝つ気はない。

憂「……さすがお姉ちゃんだね、そのとおりだよ」

唯「やっぱりそか、ありがとうね憂」

憂「そんなことないよ」

 お姉ちゃんを勝たせるためとはいえ、紬さんを騙しているんだから、心が痛むよ。

-----

 それにしても……。
 
憂「何で分かったの……?」

 お姉ちゃんを勝たせようとしていることもそうだし、紬さんと組んでいることまで……。

唯「んー、やっぱりなんとなくだよ。憂が私を勝たせてくれようとしていることは、
   すぐ分かったけどね」

憂「……」

 そっか、お姉ちゃん昔から、他の人が気づかないような、
他人の変化に気づいてることがあったな……お姉ちゃん自身に自覚はないと思うけど、
その人の空気を変えてくれるんだよね。

 だから、今日も私と紬さんがいつもと違うことに気づいたのかな。

唯「でね、憂。そのことで話があるんだど……澪ちゃんのことで」

憂「澪さん?」

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唯「うん。澪ちゃんは1人になっても、あきらめていないように見えるんだ。
   それでさっき、あずにゃんに話しかけてたけど、その前にメールを打ってたみたいなんだよね〜」

憂「……」

 ……梓ちゃんが携帯を見てる……澪さんがメールを打った相手は梓ちゃん……。

 ここでわざわざメールを打つってことは、私達に聞かれたくないから……。

憂「もしかして……」

 澪さんも気づいてるの……? 私と紬さんのこと……。

唯「そんな気がしたんだ。それでね、憂、何でそのことを憂に言ったかっていうと……」

憂「……?」

-----

-憂-(時間軸戻る・唯勝利決定後)

 お姉ちゃんは休憩時間のとき、今お姉ちゃんがしたことを、私に提案してきた。

 私のそもそもの計画は、紬さんと組むことで、皆さんの勝敗をある程度コントロールし、
紬さんを脱落させ、最後に自分も脱落する……。
 あとはお姉ちゃん次第……。

 この王様と奴隷ゲームに、必勝法なんて存在しないから、最後はどうしてもお姉ちゃん頼りだった。

 でも、それをお姉ちゃんが解決してくれた。

澪「唯、さっきのは本当に演技だったのか!?」

律「唯!」

 私はお姉ちゃんに、私の作戦を話した。
 お姉ちゃんは、私に話しかけた段階で、自分が何をするのか考えていたみたいで、
自分が演技をするということを私に言った。そして、結果は成功……。

唯「何を言っても無駄だよ、私の勝ちなんだから!」

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 お姉ちゃんが演技を行う前段階として、私の存在は大きかった。

 私がいかに、自然に脱落するか。

 私はそもそも自分から脱落するつもりだったけど、
それではお姉ちゃんの演技の意味が薄くなってしまう。

 だから少しだけ、皆さんを挑発する態度をとった。

 こうすることで、お姉ちゃんの演技に重みが出る……
皆仲良くが一番……簡単にそう思わせることができる……。

梓「唯先輩ひどいです!」

唯「でもあずにゃんだって嘘をついたでしょ? おんなじじゃん」

梓「それは……そうですけど……」

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 私が王様のとき……最大の問題点は紬さんが何を引くかだった。
もし紬さんが奴隷を引けば、律さんが王様のときに嘘をついている紬さんが言うことは本当のことだから、
私は紬さんを指名せざるを得ない。もちろん、何か理由をつけて他の人を呼ぶこともできるけど……。

 そうなると、澪さんなら簡単に私とお姉ちゃんのつながりに気づく。

 だから、あのとき紬さんが奴隷を引かなくて本当によかった。

紬「憂ちゃん、やられちゃったね……」

憂「……」

 ……ごめんなさい紬さん。

 それにしてもお姉ちゃん……やっぱりすごいよ。
 この作戦を考えたのはお姉ちゃん……実行し、成功したのもお姉ちゃん……。

 お姉ちゃんじゃなかったらできなかったよ。だってお姉ちゃんは……。

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-唯-

唯「だから、この賞金は私のものなのです!
   どう使おうと私の自由なのです!」

 ああ、楽しかったな!

 憂と考えた作戦もうまくいったし、絶対に言いたかったあのことばも言えたし。
最初にりっちゃに、バカだよねええ、って言われたのくやしかったしね。

唯「ところでさ皆、このゲームどうだった?」

律「……」

澪「……」

唯「あずにゃん、どうだった?」

梓「え? ……私は……えっと……」

紬「……」

唯「私は、楽しかったよ!」

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唯「さっきは、皆がちょっと怖いなんて言ったけど、実はあれも嘘なんだ。
   私はすっごく楽しかった! 皆すごく真剣で、見たことがない表情をして」

律「そりゃ、私も楽しかったけど……」

梓「……」

唯「だから、もっかいやらない!?」

澪「……え?」

唯「もっかいやるんだよ、ゲームを!」

紬「唯ちゃん……」

唯「賞金なら私が出すよ、何せ50万円もあるんだからね!」

憂「……お姉ちゃんかっこいい!」

 私はゲームをしてる間ずっと考えてた……軽音ももちろん大好きだけど、
このゲームもすごく楽しくて、もっとやっていたいって。

 だから……。

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唯「よし、行くよ第2ラウンド!」

さわ子「唯ちゃんいいわね! 行きましょう!」

律「さわちゃん飽きたんじゃなかったのかよ!」

紬「もうひとこえ〜ってことね!」

憂「お姉ちゃん!」

純「わ、私はまたディーラーで……」

梓「や、やってやるです!」

澪「お前ら練習はいつになったら……いや、私もやるぞ!」

 次はどんなゲームをやるのかな、誰が勝つのかな?

 どんとこいだ!


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